※このページは長編小説『排尿税』の第10話です。
第1話から読みたい方はこちら→ホームルームの粗相
前回の話はこちら→第9話 増税
登場人物紹介
| 名前 | 人物 | 兄弟構成 |
| 戸塚 秋菜 (とつか あきな) |
本作の主人公。天真爛漫で元気いっぱいだが、多少空気の読めない所あり(もはや多少ではない)。 | 1人っ子 |
| 旭 夏海 (あさひ なつみ) |
秋菜と幼馴染。秋菜ほどではないが、普段から明るく好印象。頭もいい。 | 2人姉弟。下に弟が1人いる |
| 鶴見 真冬 (つるみ まふゆ) |
小柄な女の子。人を笑わせるのが好きな目立ちたがりで、クラスのムードメーカー。 | 3人兄弟。上に兄、下に弟がいる |
| 金沢 心春 (かなざわ こはる) |
口数の少ない静かな女の子。いつも教室で小説を読んでいる。黒縁のメガネが特徴。 | 2人兄妹。上に兄が1人いる |
第1章 手術の遅れ
夏海「ねぇ、ママ!! 私の排尿カウンターの手術案内って届いてないの?」
夏海は母親に電話をかけていた。かなり焦っている様子だ。
夏海「うん!! そう!! どこにもないの!!」
夏海は両手でスマホを持ちながら、深刻そうな面持ちで相槌を打っていた。その横で秋菜も、少し心配そうに夏海を見つめている。
夏海「・・・うん、分かった!! ごめんね急に。ありがとう!!」
数十秒後、夏海はそのまま電話を切った。彼女なりに明るく話しているつもりなのだろうが、変わらず重い表情を浮かべている。
秋菜「・・・どうなったの?」
スマホを握りしめる夏海を、心配そうに見つめる秋菜。しばらく間を置いた後、夏海はこんな返事をする。
夏海「どこから説明すればいいのか分からないから、頭の中を整理してから今度話すね。あと悪いけど、今日は帰ってほしい。」
秋菜「えっ、なんで?まだ宿題も何もやってないよ!!」
夏海「それは秋菜がダラダラしてスタートが遅れたからでしょ?」
秋菜は想定していなかった夏海の要望に驚いていた。10年以上の付き合いの中で、こんなふうに突然家から帰されたことは一度もなかった。
秋菜「突然帰ってほしいだなんて、夏海からそんなこと言われたことないよ・・・。」
夏海「なっ、夏休みはこれからじゃん笑 また今度来てよっ!! その時に宿題も一緒にやるし、話もするからさ・・・。」
夏海は申し訳なさそうにそう言ったが、秋菜は不満げな表情を浮かべていた。そして一旦夏海の部屋に行き、数分後に荷物をまとめて玄関に戻ってくる。
秋菜「ネガティブな話なの?それともそこまで深刻じゃない感じ?それだけは教えてほしいかな。」
秋菜はバッグを両手に持ちながら、夏海にそう問いかけた。
夏海「言いづらいけど・・・かなりネガティブだと思う。」
夏海は少し下を向いていた。もしかすると秋菜が思っている以上に、夏海はかなり深刻な状況なのかもしれない。一体彼女に何が起こったと言うのだろうか?
秋菜「そっか・・・分かったよ。」
秋菜はそれ以上何も言わず、夏海の家を後にした。トボトボと寂しそうに歩く秋菜の背中を見ていると、夏海は胸がギュッと締め付けられるような感覚に襲われた。
しかしその頃には、夏海は全く悲しそうな顔ではなくなっていた。覚悟を決めたような表情になり、住宅街の道を歩く秋菜の後ろ姿を窓から見つめながら、静かにこう呟くのだった。
夏海「・・・絶対に守ってあげるからね。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
心春(そういえば旭さんって、そろそろ納税デビューでしょう?結局のところ、手術は無事に受けられたのかしら?)
それから数時間後の夜。イチゴ狩りの時に心春と連絡先を交換していた夏海の携帯に、こんなメッセージが届いていた。
夏海(まだ受けてない。なんか区役所からの郵送が遅れているみたいで、手術の通知もまだ届いてないんだよね。)
心春(もう7月下旬よ?数日後にあなた18歳になるじゃない。1ヶ月前までの装着が義務化されているのにどうなっているわけ?)
夏海(それもそうだけど・・・。)
心春(それもそうだけどじゃないわ。通知が来てないと言ってたあの時から違和感はあったのよ。本来なら既にあの頃にはカウンターの装着手術を終えてないといけない時期じゃない。)
夏海(なんか行政のミスみたいなんだよね。アハハ笑)
心春(呆れた。呑気にも程があるわ。戸塚さんとずっと一緒にいるから、それが移ったんじゃないかしら。)
夏海(さっき日程を調整して、明日には手術を受ける予定だよ。3日後の誕生日にはギリギリ間に合うから大丈夫。)
心春(ギリギリ過ぎるわよ。術後もしっかりカウンターが動作しているか、確認する必要があるのに。)
夏海(とりあえず大丈夫だよ。心配ありがとう!!笑)
心春(大丈夫なら私がとやかく言う必要もないからいいけど。来月から排尿税も上がるし、気をつけなさいね。)
夏海(ありがとう。おやすみ。)
夏海と心春の2人はそんなメッセージのやり取りをしていた。心春はスタンプで返事をすることもなく、既読だけを付けたきり、スタンプすら返さなかった。
秋菜(今日はごめんね。)
すると今度は心春と入れ替わるように秋菜からメッセージが届いた。今日はやけにメッセージアプリが騒がしい。
夏海(なんで秋菜が謝るの?笑 悪いのはこっちだって。こっちこそごめん。)
秋菜(ううん。なんか家族の事情っぽかったし、親友と言えど、その辺は言えなくても仕方ないと思ったよ。機嫌損ねたような態度になっちゃった。だからごめん。)
夏海(気にしてないよ。心配してくれてありがとう笑 ところで宿題はやってるの?)
秋菜(全然やってないよっ!!笑)
夏海(このまま8月末までやらないまま?私はちょっとだけ進めたよ?笑)
秋菜(ええーっ!! 一緒にやるって言ったじゃん!!笑)
夏海(どうせ私の家に来ても、ダラダラ過ごして進まないのが秋菜でしょ?笑)
秋菜(だって面白い漫画がたくさんあるんだもんっ!!)
夏海(宿題を終わらせてから読めばいいじゃん。)
秋菜(お母さんみたいな言い方ーーーっ!!笑)
すぐにいつものような会話に戻る2人は、深夜までメッセージのやり取りを続けるのだった・・・。
第2章 夏海の誕生日
秋菜「みんな大丈夫?」
真冬「おうよっ!!」
心春「問題ないわ。」
それから数日が経った7月23日。遂に夏海は18歳の誕生日を迎えた。事前に家にいるようお願いをしていた秋菜は、心春と真冬を連れて夏海の家にやってきていた。
ピンポーーーーーンッ!!
秋菜はインターホンを押すと、急いで再び玄関の裏に隠れた。そして家の中から物音が聞こえると、3人は顔を合わせて合図を送った。
夏海「あれーーーっ?今年の秋菜はどこに隠れているのかなーー?笑」
夏海は分かっているかのように、わざとらしく遠くを見るような素振りで辺りを見渡していた。するとその隙を狙った真冬が、なんと突然顔面パイをお見舞いしたのだった。
真冬「誕生日おめでとーーーーっっっ!!」
ベチャ!!
夏海「うわぁ!!」
パンッ!! パンッ!!
それと同時に、秋菜と心春は夏海の両脇からクラッカーを鳴らした。
夏海「普通クラッカーの後にパイじゃないの?前が全然見えないんだけど笑」
パイで顔が真っ白になる夏海を見て、3人は大爆笑だ。パイのクリームには、クラッカーの紙テープなどが貼り付いていた。
夏海「ちょっと待って。鶴見ちゃんも来てるの?」
秋菜「心春ちゃんもいるよ!! 遠くから来てくれたんだよっ!!」
夏海「嬉しいけど見えないんだってば!!笑」
真冬「これで学校での借りは返したぞ?」
秋菜「真冬ちゃんあの時の事、まだ覚えているんだ?」
心春「何のことかしら?」
夏海「とりあえずそんな話はいいから、タオルとか持ってないの?笑」
素手でクリームを拭き取る夏海の様子を見て、秋菜は急ぎ足で夏海の家に入って行った。
真冬「うわーーー!! 秋菜が不法侵入だーーーっ!!」
心春「幼馴染なんだから、家に入るのも慣れているんでしょ?」
夏海「多分、急いでタオルを持ってきてくれてるんだと思う。いつも秋菜は後のこと考えてないから、きっとタオルの事も頭になかったんだろうね笑」
そんな会話をしていると、十数秒後に秋菜は1枚のバスタオルを、玄関の扉から手を伸ばすようにして夏海に渡していた。
秋菜「タオルも勝手にごめんね!! 誕生日おめでとうっ!!」
夏海「ありがと笑」
夏海は受け取ったバスタオルを使い、顔や汚れた服を丁寧に拭いていた。去年も同じようにやられたのか、とても手慣れた様子だ。
真冬「毎年こんな感じで夏海にサプライズしているのか?」
秋菜「そうだよっ!! 夏海は夏休み生まれだから、いつも学校で祝われない分、私が全力で祝うのが毎年の恒例行事なんだよっ!!」
夏海「今年は鶴見ちゃんも金沢さんも来てくれて嬉しい。2人とも家が遠いのに。」
真冬「このデカ女に比べりゃ、ウチなんて全然遠くねーよ。コイツ横浜市外から来てるんだぜ?横浜じゃない方の神奈川県!!」
心春「あら。町田の植民地から来ている人が、何か言ったかしら?」
真冬「うるせー!! お前の住所に”区”があんのか?こっちは政令指定都市だぞっ!! それも人口日本一のっ!!」
心春「こういう無駄な横浜プライドって瀬谷みたいな郊外・・・失礼、ど田舎の人の方が敏感なのよね。弱い犬ほどよく吠えるなんてよく言ったものよ。」
真冬「んだとコラァーーーーッ!!」
心春「現に神奈川区在住の戸塚さんと旭さんは、そういうプライドの片鱗を一度たりとも見せたことがないわ。あなたとは大違いね。」
真冬「神奈川区は格上だけど、今はそんなの関係ねーっ!! お前みたいな横須賀とかいう横浜ですらないヤツにバカにされるのが、一番腹が立つんだよーーーっ!!」
いつものように心春と真冬がそんな言い合いをしていると、申し訳なさそうに夏海が仲裁に入る。
夏海「あ・・・あのー、とりあえず家入ろっか?笑」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
秋菜「排尿カウンターのアプリってスマホに入ってるの?」
夏海「もちろん入ってるよ。」
秋菜「見せて見せてーーーっ!!」
4人は夏海の六畳間でくつろいでいた。秋菜はもちろん慣れていたが、真冬は意外にも人の家だからなのか緊張している様子だ。
心春「あら鶴見さん。初めての旭さんの部屋に緊張しているわけ?」
真冬「う、うるせーよ。人の家では大人しくしてろって、母親から言われてんだよ・・・。」
心春「さっきまで鶴見さんが大声を出していた時だって旭さんの家の敷地内だったわ。部屋の中とは別扱いなのね。」
真冬「誰かさんと違ってウチは育ちがいいんだよっ!!」
心春「育ちがいいのなら、まずはその下品な口調をどうにか出来ないかしら?」
真冬「んだとコラァーーーーッ!!」
相変わらず、心春と真冬の2人は口論していた。しかし秋菜と夏海は、2人をそっちのけで排尿カウンターアプリに夢中だ。
秋菜「夏海が最後におしっこしたのが、これを見ると2時間前ってこと?」
夏海「恥ずかしいから言わないでよ・・・ ///」
夏海は顔を赤くしながら秋菜にそう返事をしたが、他にも何か言いたげに、モジモジとしている様子だった。
秋菜「排尿量は380mlだってー。心春ちゃんと比べるとかなり少ないよね?」
夏海「そりゃ金沢さんと比べたら少ないよ・・・。というかそんな事より、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど・・・。」
秋菜「凄いよね!! この記録ってリアルタイムで更新されていくの?」
夏海「う、うん。数分くらいで更新されるけど・・・。」
秋菜「凄ーい!! そんなに反映されるの早いんだーーーっ!!」
夏海「うるさいよ秋菜っ!! 今はちょっと話を聞いてよっっっ!!」
夏海は突然叫んだ。あまりに突然の出来事に、秋菜は思わずスマホをいじっている手を止めた。心春と真冬の2人も、夏海の大声に驚いている様子だった。
夏海「秋菜だけじゃなくて、金沢さんも鶴見ちゃんも聞いてほしい・・・。とても大事な話だから。」
夏海はそう言って立ち上がった。ただならぬ彼女の様子を見て、3人は驚いた様子で夏海を見つめたまま固まってしまっていた。
夏海「今日で私は18歳になりました。私がずっと嫌がっていた排尿カウンターの手術も、日程ギリギリでなんとか終わって、今日から私も納税デビューをすることになりました。」
秋菜「・・・改まってどうしたの?」
夏海「本当はこの話を公にしてはいけないことだけど、私はこの3人の事を信じているから言います。」
夏海は両手を握り締めていた。その拳は小刻みに震えていて、どこか大きな覚悟を決めているような、そんな様子だった。
夏海「話が長くなるから、どこから話していいのか分からないけど・・・。」
夏海はとても深刻そうな表情をしていた。それはまるで、数日前に秋菜を家から追い出した時のような、そんな表情だった。
夏海「人体に重大な悪影響を及ぼす可能性があり、発がん性も疑われている次世代型の最新の排尿カウンターの仮装着対象者に、秋菜が国からの推薦で選ばれることになりました。」
その瞬間、3人の視線は一気に秋菜の方へと向いた。当の本人である秋菜は、一体何を言われているのかが理解できず、ただただ固まるほかなかった・・・。
〜つづく〜
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