第1章 ホームルームの粗相
御手洗首相「えーーー。3年後となる令和11年3月31日を最後に、現在の全ての税制を撤廃します。国税や地方税などは問いません。」
ある日の朝。テーブルで朝食を食べていた中学3年生の戸塚 秋菜は、テレビで報道中のとあるニュースが目に入った。キッチンに立つ母親も、テーブルで新聞を読む父親も、思わずテレビに注目していた。
秋菜「税金がなくなるって事?なんで???」
母「でも良いことじゃないの?消費税もなくなるんでしょ?」
父「さすがに何かの冗談だろう。税収がないと国が崩壊すると言ってもいいし・・・。」
突然始まった会見は、かなり大々的に報道されていた。大量にカメラのフラッシュを浴びる内閣総理大臣は張り詰めた表情で、淡々と信じられない発言をする。
御手洗首相「その代わり、新たに令和11年4月1日から排尿税を導入します。その為にも、残り3年の間にしっかりと準備を進めて参ります。」
それはとても現実とは思えない内容で、家族3人は無言のまま、ただ茫然とテレビを眺めるだけだった・・・。
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それから3年という月日が流れ、秋菜は今日から高校3年生になった。通っている高校は横浜市にある私立の女子校で、彼女はいつも電車に乗って通学している。
排尿税というとんでもない税制がスタートしたのも今年度からだ。もちろん施行されるまで国民のデモは数えきれないほどあったが、政府はそんな事に聞く耳すら持たない。
女の子「ママーーーーおしっこ!!」
ママ「ダーメ!! あと30分は我慢しないとお姉ちゃんになれないよ?今のうちに鍛えておかなきゃ!!」
女の子「でももう漏れちゃうーーー!!」
秋菜がいつも利用している駅の前では、5歳くらいの女の子と若いママがそんな会話をしていた。幼い子は排尿税の対象とはならないが、若いママは幼いうちにと、娘の膀胱を訓練させているのだろう。
「寝る前にトイレへ行く必要はありません!! 多少の尿意は我慢して節税しましょう!!」
街を少しでも歩くと、節税に関する企業の広告が嫌でも流れてくる。最近では“排尿コンサル”というビジネスも展開され、健康的にかつ、節税を心がけた生活を提案するインフルエンサーなども増え始めた。
排尿税の対象は満18歳以上の全国民で、尿量に関係なく“排尿の回数”で決まるこの税制は、1回の排尿で300円の税金が課される仕組みとなっていた。
18歳の誕生日を迎えたその日の排尿から課税対象となる為、全国民は17歳11ヶ月までに行政が指定する病院で、尿道に専用の“排尿カウンター”を埋め込む手術が義務付けられていた。それ以上の年齢の場合は、準備期間内での手術が義務化だ。
秋菜(今のうちだ!! 好きなだけトイレでおしっこを出せるのは今年までだよ!!)
そんな事を考えながら、秋菜はいつもの電車に乗った。彼女はまだ17歳。課税対象となる年齢までは、まだ半年ほどの期間があった・・・。
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秋菜「えーっと、戸塚 秋菜は・・・あった!! D組だっ!!」
電車を乗り継いでやってきた学校の廊下には、既に新しいクラス名簿が貼られていた。知っている人も多かったが、知らない人もちらほらいる。
夏海「また秋菜と一緒だよ・・・?笑」
秋菜「やったーーーー!! 中学から6年連続じゃーん!!笑」
夏海「よろしく!!笑」
中学から6年連続で同じクラスとなった旭 夏海とは、小学校からの幼馴染だった。2人は笑顔で抱き合った後、一緒に歩いてDクラスの教室へと向かった。
夏海「今年は受験もあるけどさ、遂にアレが始まっちゃうじゃん・・・?」
はじめは新しいクラスについての話をしていたが、今年度から施行された例の話題を、夏海が突然持ちかけた。
秋菜「・・・アレって?」
夏海「分かるでしょ?納税デビューってヤツ・・・。」
夏海は新年度というウキウキした気分の秋菜とは対照的に、少し俯いた様子で話していた。
秋菜「3年前にテレビで会見を観た時は、本当に冗談かと思ったよ!! だってあり得ないじゃん普通!!笑」
夏海「正直、私は嫌だ。夏生まれだから夏には手術を受けないといけないし、それも含めて嫌!!」
もちろん手術費用は国が負担する事になっているが、そこにコストをかけては本末転倒だと反発する国民は大多数だった。そもそもこんな馬鹿げた税制自体、施行することがそもそもおかしい。
秋菜「私のお母さんは手術痛くないって言ってたよ!! 麻酔するから大丈夫なんだって!! アハハ・・・笑」
夏海「違うよ!! そういう事じゃない!!」
夏海は少し怒ったように大きな声で返事をした。驚いた秋菜は思わず立ち止まってしまった。
秋菜「ご・・・ごめん。」
夏海「ううん。こっちこそごめん・・・。」
2人の空気が少しだけ悪くなった頃には、Dクラスの教室が見えてきていた。他の生徒達は長い廊下を歩いて、それぞれの教室へと入っていく。
夏海「排尿税なんて絶対おかしいし、何よりも・・・恥ずかしいじゃん///」
年頃の女の子にとって、その税制に羞恥心を抱く事は当然だった。無論、国民の反対意見にもそういった理由があったが、一体この国は何を考えているのだろうか?
秋菜「受け入れるしかないんだよ!! 排尿税は先週から既に始まっちゃったし、私達より年上の人達は、全員手術を終えて納税がスタートしているんだよ?」
夏海「そうだけど・・・。」
そんな話をしていると、2人の背後から細身の長身男性教師が話しかけてきた。
先生「戸塚と旭じゃないか。今日から君たちは俺の担任という事になっている。早く教室に入りなさい!!」
秋菜と夏海「えーーーーーっ?溝口先生が担任なのーーーっ???」
2人は思わず声を揃えて叫んだ。先生に着いていく形で渋々教室へと入っていくと、教室の最前列の廊下側の席で、黙々と小説を読んでいる静かな女の子が目に入った。
彼女は黒縁のメガネをかけていて、真っ黒なストレートのロングヘアーが特徴的だった。初めて同じクラスになった秋菜と夏海の2人は、もちろん彼女の名前すら知らない。
先生「よーし!! みんな席に着け!! 3年生になって初めてのホームルームを始めるぞ!!」
先生の声かけにより、少しガヤガヤしていた教室は一気に静かになった。
先生「まずは出席を取るぞ。1番の旭!!」
夏海「は・・・はいっ!!」
先生が点呼を進めていると、秋菜は遠くの席から夏海に手を振っていた。夏海はそれに気が付き、少し恥ずかしそうにしながらも秋菜に手を振り返す。
先生「次、伊藤!!」
私立高校という事もあって、担任となる先生は誰もが知っていた。恐らく黒板に自分の名前を書くこともしないだろう。
ビチャビチャビチャ・・・。
すると突然、教室内に水の流れる音が響き渡った。耳を澄ませると、その音は教室の後方あたりから聞こえていて、その辺りに座る1人の小柄な女の子が微動だにせず、机に顔を埋めていた。
秋菜「せ、先生っ!! 隣の子がちょっと・・・その、漏らしちゃってます!!」
担任は一旦点呼を止めて、秋菜の隣に座る小柄な女の子の席へと近づいた。彼女の足元には、朝のトイレを我慢したまま漏らしてしまったのか、かなり濃い色をしたおしっこの水溜まりが広がっていた・・・。
第2章 鍛え続けた膀胱
秋菜「まさか新学期早々、お漏らしをする子が出てくるなんてビックリだよね!!」
始業式が終わり、2人は放課後の校舎のトイレを利用していた。今日は4限までだったので、14時前という時刻なのにも関わらず、学校にはほとんどの生徒が姿を消している。
夏海「あの子、鶴見って言ったっけ?名前までは覚えてないけど、確かそんな名字だったよね?」
秋菜「名前なんて私は全然覚えてないよ!! 出席の時はずっと夏海に手を振る事で精一杯だったから!!笑」
夏海「必要のない事を、精一杯頑張らないで!!笑」
秋菜は手洗い場の蛇口の水を止めて、夏海にハンカチをねだった。夏海は少し呆れた表情になりながらも、ポケットからハンカチを取り出して、それを秋菜に渡す。
夏海「多分あの子、誕生日が早くてもう18歳なんだろうね?課税対象になるからトイレが出来なくて、朝のトイレも我慢したまま、学校に来てしまったんだと思う・・・。」
秋菜「きっとそうだよ!! だから我慢出来ずに漏らしちゃったんだ!!」
夏海「本当に恥ずかしそうにしてた。可哀想だよ。先生も男だし、もうこの国は生きにくいよ。私も見てて辛かった・・・。」
そんな会話をしていると、1人の女の子がトイレへと入ってきた。彼女はホームルームの直前まで教室の最前列で小説を読んでいた、あの静かな雰囲気の黒縁メガネの女の子だ。
秋菜「あっ・・・。」
2人は無意識に彼女に向かって会釈をした。すると黒縁メガネの女の子は意外にも、そんな2人の会話を聞いていたのか、突然こんな話を始めるのだった。
心春「今のって鶴見さんの話でしょ?可哀想ではあるけど自業自得ね。」
彼女はクールな見た目通りに低い声だった。
夏海「ちょっとそれどういう意味?というか、あなたは誰なの?」
心春「あなた達と同じDクラス。出席番号6番の金沢 心春ですけど?アナタ達の声がうるさいから、嫌でも話が入ってきてしまってね?」
心春の態度に、夏海は少しばかり腹を立てた。
夏海「なんでそんな態度なわけ?それに自業自得ってどういう意味よ?悪いのは国でしょ?」
秋菜「ちょっと落ち着いてよ2人とも!! 新学期早々ケンカしないでっ!!」
慌てて仲裁に入る秋菜のおかげで2人は少し冷静になり、秋菜は思わずホッとした。
心春「そうね。国が悪いのは大前提よ。でもそれがどうしたの?排尿税が始まるってそんな事、3年も前からテレビやネットでも耳が痛くなるくらいに報道していたじゃない。」
心春はそう言って、トイレの奥にある個室の扉へと歩いていった。
心春「鶴見さんが教室で漏らしてしまったのは、事前に膀胱を鍛える訓練をサボっていたからよ。もしかしてアナタ達も鶴見さんと同じようにサボってたってわけ?」
心春は妙に説得力のある話し方だった。手洗い場で突っ立ったままの2人は、言い返す言葉も思いつかない。そんな2人の様子に心春は、こんなセリフを吐いてトイレの個室の扉を開いたのだった。
心春「それなら教えてあげる。3年間、節税の為に鍛え続けた私の膀胱を!!」
ガチャン!!
心春はそう言って個室に入り、扉を勢いよく閉めた。そして服の擦れる音が聞こえた後、初速から物凄い勢いで、おしっこを放出する音が聞こえてきたのだった。
ゴォーーーーーーーー!!
その轟音は何十秒もの間、キレイな女子トイレの便器を割るように叩きつけていた・・・。
〜つづく〜
次の話はこちら→第2話 ムードメーカー
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