このページは長編小説『白いストラトキャスター』の第16話です。
※今回の長編小説は登場人物紹介やあらすじ等はありません。読まれていない方は第1話から読むことをオススメします。
第1話から読みたい方はこちらからどうぞ→第1話 無口な美少女
前回のお話はこちら→第15話 相談事
第1章 体の中の3つの袋
楓「・・・そやろ?ウチの事好きやって、ずっと分かってたで?笑」
立ち止まった楓を真似するように僕も立ち止まった。気持ちを悟られるのも無理はないと思ったが、それよりも相手からこんな事を言わせてしまった事に対して、情けないという気持ちの方が強かった。
僕「そうだけど・・・いつから知ってたの?」
楓「・・・初めて駅の待合室で偶然会うた時やな。」
僕「凄い前だね・・・。」
楓「認めるんやな?笑」
僕「うん・・・。」
楓が歩き出したのを見て、僕もゆっくりと歩き出した。僕は何て言葉を返そうかと迷っていたが、そもそも何から話せばいいのかが分からない・・・。
楓「その話は一旦置いてちょっと話戻すけど、ウチがドリンクバーでたくさんジュースを飲んだのはワザとや。」
僕「・・・やっぱりワザとなのかよw」
僕が黙り込んだ事に気を遣ったのか、楓は話を変え始めた。
楓「単純に我慢するのを楽しんどる笑」
僕「いやーーーーさすが!! 楓は変わってますわ笑」
楓「せやけどこの趣味。色々調べていったら性に結びつける人もおるらしくてな・・・。」
元気を取り戻したかのようにニヤニヤしながら話していた僕は、今度は急に表情が引き攣って固まってしまった。図星だと思われるかもしれないが、動揺を隠せなかったのだ。
楓「ウチにはそんな発想が全くなかったからビックリしたで。せやけど考えてもみれば、それは当たり前かもしれへん。排泄って割と、性的な結びつきが多いなって確かに思うで。」
僕「な・・・なるほど。」
楓は僕を見る事なく長々と話を続けていた。もしかしたら僕にそんな性癖があるのだと、楓には既に勘付かれているのかもしれない。
楓「生物学的に考えたら、ウチの方がおかしいのかもしれへんな?」
僕「まぁ変わってはいるとは思うけど・・・」
楓「今ももう、ホンマに漏れそうやわ・・・。」
さらに追い討ちをかけるように、今度は僕の目を見ながらそう言い放った。もう楓が何を考えているのか分からない。狙っているのか?それとも僕を試しているのだろうか・・・?
楓「言うとくけど、ウチはこの趣味に対して性的な嗜好が全くないで。ただ人体の構造に興味があるだけなんや。」
僕「なるほど・・・。」
楓「この前、ウチのノート見たやろ?」
僕「う・・・うん。」
楓「人に見せられへん趣味やって分かっとった。せやけど下腹部さんはそれを勝手に見たんや。」
僕「・・・すんません。」
楓「信じられへんかもやけど、あの時ホンマはちょっと嬉しかったんやで?」
僕「えっなんで?あんなに怒ってたのに?笑」
楓「見られた事が嫌やったんやなくて、秘密って言うたんに、それを分かった上で見られんのが嫌やった。」
僕「本当にごめんなさい・・・。」
楓「せやから、それはもうええって。自慢出来るかもと思てホンマはちょっと嬉しかってん・・・。」
ゆっくり歩いていた2人は次のバス停に到着した。時刻表通りにバスが来ると仮定すれば、あと3分ほどでお別れだ。
楓「ウチ、この数ヶ月でホンマに我慢出来るようになったんよ。」
僕「あっだから、自慢する為に乃々華に膀胱が大きいって言ってたのか笑」
楓「そうや。ウチ元々、食べる量と肺活量には自信があんねん。体の中には3つの袋があって、気体が入る肺、個体が入る胃、ほんで液体が入る膀胱があるやろ?」
僕「そんな事考えたことねーよw」
楓「肺と胃袋は自信があったけど、最近は膀胱にも自信が付いてきてホンマに嬉しーて!!笑」
僕「やっぱ頭良い人ってちょっとズレてるわ笑 でも楓の場合は性癖じゃないってのは凄く理解したよ。ガチで臓器関係に興味あるだけだなこれはw」
楓「そやろ?今もホンマに漏れそうや。数ヶ月前のウチなら絶対に漏らしてる。せやけどウチは、今からトイレのないバスに乗ろうとしてんねんで?ホンマに凄いやろ?笑」
僕「いや凄いけど・・・笑」
楓「ホンマにメッチャ鍛えたで?笑」
僕「強調するなよ笑」
僕は楓の背後に見える、真っ直ぐな一本道の奥を眺めていた。よく見ると遠くからバスが向かってきているように見える。恐らくそれが、楓の乗るバスなのだろう。
僕「バス見えるよ。もうそろそろ来る。」
楓「ホンマや。ちゅうか本題はここからや。大事な話がある。」
僕「えっ大事なのにこんな時に話すの?また今度でも・・・」
楓「今じゃなきゃアカン!! すぐ終わるから!!」
楓は真面目な顔になって話し始めた。彼女の後ろに映る遠くのバスは、信号待ちをしているように見える。
楓「・・・ウチ、下腹部さんとは付き合われへん。」
唐突にフラれた僕は、ショックと驚きで固まってしまった。
楓「男として見た事がない・・・ほんで、この先も見る気はないで。」
僕「そう・・・そうか・・・。」
信号待ちだったバスは進み始めた。まだまだ遠くを走っているが、あと1分ほどで到着するだろう。
楓「そやけどウチ、下腹部さんがおらんとバイト先ではもうどうしようもないで。そやからホンマに都合がいいって事は分かってるし、わがままやって思てる。」
僕「うん・・・?」
楓「今後もウチと付き合えんとしても、下腹部さんはウチにギター教えてくれんの?」
僕「も、もちろんだよ。そもそも最初っから付き合えるなんて思ってなかったし・・・」
楓「ウチの、この我慢する趣味にも付き合ってくれんの?」
僕「楓がいいなら・・・もちろんいいけど?」
楓「付き合えもしない好きな人の、性的とも取れる趣味と付き合えるん?地獄やないの?」
僕「いやそれ楓が言うのかよw」
楓「せやから都合いいって分かってるって前置きしたやん!!笑」
ブオオオオォォーーーーーーーー!!
そんな会話をしていると、バスの走る音が2人の耳に入ってきた。
僕「うん分かった。ギターはもちろん教えるよ!!」
楓「なんで付き合えへんって分かっとるのに、そこまでするん?これ下腹部さんにメリットないで?笑」
僕「メリット大アリだよ。楓にギター教えるだけで嬉しいよ俺は。付き合えなくてもいいんだよ。」
楓「ホンマにぃーーー?笑」
楓はもちろんマスクを付けている状態だったが、満面の笑みを浮かべているのが分かった。もうこの笑顔を見るだけでいいと思ったが、やはり自分の性癖は打ち明けるべきだろうか・・・?僕の心の中はモヤモヤとしていた。
プシューーーーーーーーッッッ!!
バスはいつの間にか到着していた。入り口の扉が開き、楓はカバンを肩に掛けてバスへと向かっていったが、バスに乗り込む直前に僕の方へと振り返った。
楓「今度、ギター持って来てほしい。」
僕「うん。でも俺さ、来週火曜日はちょっと予定があって・・・木曜日とかどう?楓はバイト休みだよね?」
楓「分かった。ギター受け取るだけやもん。基本いつでもええで!!」
僕「オッケー!! また連絡する!!」
バスの運転手は楓が乗り込んだ事を確認してから入り口の扉を閉めた。
プシューーーーーーーーッッッ!!
ゆっくりと動き出し小さくなっていくバス。僕は自転車のハンドルを握りながら、一人でボーッと突っ立っていた。一体どのくらい時間が経ったのかも分からない。気が付くと楓が乗ったバスは、全く見えなくなっていた・・・。
第2章 楓の母親
僕「今着いたよ!!」
乃々華の送別会から1週間と少しが経ち、カレンダーは4月に突入した。僕はこの日の21時ごろに、楓の家の前まで自転車で来ていた。もちろんそれはギターを貸すためだった。
事前に家に行く事はもちろん伝えていたが、予定より30分も時間が早くなってしまった。僕が送信したメッセージはいつまで経っても既読が付かない。僕は家の前でずっと待っていた。すると・・・
女性「あのー、どちらさん・・・?」
その時、背後から急に声をかけられたので驚いた。僕は楓の家に背を向ける形で待っていたのだが、振り返ると家の敷地内に30代後半くらいの見た目をした女性が立っている。
僕「あっすいません!! あっ、あの・・・」
テンパってしまって言葉が出てこなかった。怪しい人だと思われるのも無理はない。
女性「えっ・・・。」
僕が声を出すと同時に、その女性は僕を見ながら手を口に当てて驚いている様子だった。もちろん家の前でじっと立っている僕が怪しいことは間違いないが、それとは別の事で驚いているように見える。
僕「あっ、あの下腹部という者です。あの・・・その、ギターを・・・」
あたふたしている僕を見て、女性はこう言い放った。
楓の母「あっ・・・あぁー、もしかして以前、娘の部屋にあった白色のギターって、アンタのもん?」
僕「そうです!! えっ?お、お母様ですか・・・?えっ!!」
声をかけられた時から薄々気付いていた事だったが、彼女は楓の母親だった。楓がとんでもなく可愛いのも納得するくらいにキレイな人で、それなりに年齢は感じるが、とても高校生と大卒社会人の子供がいるとは思えない。
楓の母「娘の楓がお世話になってます。ごめんねぇー?楓は手のかかる子やから大変やろー?ホンマに悪いわ!! お世話して貰ってねぇー!!」
僕「えっ・・・あの、こちらこそお世話になってます・・・」
楓の母「娘は今お風呂かもしれへんので、確認してきますわ。」
楓の母も楓と同様に関西弁だった。しかし楓と違ってとても愛想が良く、とても明るい印象だ。
楓の母「カエーーー!! 男の子が来てるよーー!!」
母親は離れにある古い建物の扉を開けて楓を呼んでいた。家自体が古いのもあって、それはここがお風呂場なのかと疑うような佇まいだった。
楓「うっさいわ!! ちょっと待ってや!!」
楓の母「あら。素っ裸やないの。」
楓「お風呂なんやから当たり前やろ!!」
声の大きい母と娘の会話は、僕の耳にも丸聞こえだった。祖母の時と同様に、楓の親に対する態度は典型的な年頃の娘のようで少し笑える。
楓の母「カエの部屋に先に案内しとく?今日は寒いから、外でずっと待たせるのも悪いやろ?」
楓「別にギター借りるだけやし・・・それやったら母さんが代わりに受け取っといて!!」
楓の母「なんでぇ?失礼やろ!! お風呂終わるまで部屋で待たしたらええやん!!」
楓「もうちょっとで終わるから!!」
楓の母「ところで、あの人って彼氏なん?笑」
楓「ちゃうって!! さぶいからはよ閉めたれやー!!」
そんな会話が聞こえた後、母親はお風呂の扉を閉めて、僕の方へと向かって歩いてきた。
楓の母「ごめんねぇー?もうちょっとだけ待ってて貰えるー?」
僕「全然大丈夫ですよ・・・笑」
楓の母「ところで下腹部さんって言うの?」
僕「はいっ!!」
楓の母「聞いたことあるわ!! 娘からもそうやけど、姪の乃々華ちゃんからも話に聞いたし、同じバイト先なんやってね?」
僕「はい。お世話になってます。」
楓の母「歳はいくつなん?」
僕「来月で20歳になります。大学2年生です!!」
楓の母「へぇーーーーー!! 娘はやっぱり年上が好きなんやねぇー?笑」
そんな事を言われるものだから、僕はなんて答えたらいいのか分からなくなってしまった。そこからも色々質問攻めを食らってしまったが、僕の方が怯んでしまって、質問にただ答え続ける事しか出来なくなっていた・・・笑
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
楓「・・・遅なってごめんな。」
僕「いや俺が来るの早過ぎただけだよ笑 こっちこそごめん!!」
10分後。結局僕は楓に案内されて部屋に入る事になった。彼女の部屋に入るのは2回目だ。周りを確認してみたが、今回は楓の下着は干されていないようだった笑
僕「ビックリした。まさか楓のお母さんに会うとは・・・笑」
楓「今日は母さんの仕事が休みやって先に言うとくべきやったわ。ごめんな?笑」
ドライヤー直後の楓の髪の毛はとてもサラサラだった。真っ黒で綺麗なその髪は、気が付けば出会った頃と比べてかなり伸びている。
僕「以前はお母さんに会わせるの嫌みたいだったけど、もういいの?」
楓「うん。彼氏やないって言い張るから大丈夫や笑」
僕「なんだそれ笑 ってか楓ってお母さんから”カエ”って呼ばれてるの?笑」
楓「・・・うん///」
僕「メチャメチャ可愛いなそれ笑」
恥ずかしそうに答える楓が本当に可愛かった。元々“楓”という名前も可愛いと思っていたが、親から“カエ”と呼ばれるのは尚更可愛い。
僕「ところで楓のお母さんさ、死ぬほど美人だよな・・・笑」
楓「そやろ?笑 30年以上前は、母さんと妹の2人コンビで”街一番の美人姉妹”って言われとったらしいで笑 オモロいやろ?笑」
僕「オモロいって言うか田舎臭いし、古臭いななんか笑」
楓「確かにそうやね。」
僕「いや待って。30年以上前?お母さんいくつなの?」
楓「49や。あと数ヶ月で50になる。」
僕「嘘でしょ。30代後半に見えたけど・・・。」
楓「母さんに言うとくわ。きっと喜ぶで笑」
僕「妹さんって、もしかして乃々華のお母さん?」
楓「そうや。ウチの母さんの3歳下なんやて。」
僕「で、お母さんは関西出身なの?俺、てっきり九州で生まれ育ったのかと思ってたけど・・・」
楓「フフフフッッッ!!笑」
僕「ん?急にどうしたの?」
楓「母さんは九州生まれの九州育ちや。エセ関西弁やな笑 20年も大阪におったし、大阪出身の父さんとお兄ちゃんとウチの3人に囲まれて生活しとったから移ってんで笑」
僕「あーーーなるほど。そりゃあ移るかもな笑」
2人は楓のベッドに座っていた。壁側にはケースから出された裸のギターが置いてある。楓は白いストラトキャスターのネック部分を見つめながら、指を使ってサラリと柔らかく触っていた。
楓「話変わるけど、弦交換って習わんと出来ひん?」
僕「Y◯uTube見れば分かると思うけど・・・不安っちゃ不安だよね?」
楓「・・・うん。」
僕「そうだ。どうせなら今教えるわ。交換用の弦もニッパーもあるし!!笑」
楓「弦切れてへんのに交換してもええん?」
僕「むしろ切れる前に交換するのがベストだよ。もう結構長いこと変えてないし、ちょうど良かったかも!!笑」
僕は座っていたベッドから立ち上がり、ギターケースのポケットから交換用の弦とニッパーを取り出した。
僕「新しい弦がケースのポケットにまだあと5セット入ってる。楓が高校卒業するまではさすがに持つと思う笑」
楓「いくらするん?高いやろ?」
僕「いや安いやつだし、そもそもセット価格だから1セット400円くらいだよ笑」
楓「思ったよりは安いわ・・・。」
僕はペグを回して弦をゆるゆるにし、ニッパーで6本の弦を切った。
僕「この”6″って書かれているのは6弦って意味。6弦はどこに張るか分かる?」
楓「うん。ここや。」
僕「正解!! ストラトは基本、後ろの穴から通して弦を張る。ほらこうやって・・・」
楓「ホンマや。凄いな。」
僕「そしてヘッド部分に巻きつけるんだけど、この時に注意。ヘッドの形に合わせないとダメ。この形だと逆になってるのは分かる?」
楓「うん。曲がっとるな。」
僕「これだと弦を張った時に、弦と弦の溝に負荷がかかるからNG。こうやって真っ直ぐになるように巻きつけるのが正しい。これが正しい向き。そしてある程度緩く張ったらそれをあと5回、つまり1弦まで繰り返し。はい、あとは楓がやってみて!!笑」
楓「ちょう待ってや。メモする。」
僕「文章だけじゃ分かりにくいから、写真も撮ってた方がいいかも!!」
楓「そやな。」
楓は急いでスマホのメモアプリを開き、僕が言ったことを文章にして入力していた。楓のメモアプリを見るのは久しぶりだ。僕に対してスマホ経由で会話をしていたあの頃が懐かしく感じる・・・。
パシャパシャ!!
その後、楓はカメラを使ってギターのヘッド部分を中心に写真を撮っていた。撮った写真を確認するようにアルバムを眺めた後、楓は突然僕の肩を叩いてきた。
楓「スマホの写真見て思い出してんけど、これ見てや!!」
そう言って楓は1枚の画像を僕に見せた。そこには計量カップに薄い黄色の液体が満杯に満たされている画像で、僕はそれが楓のおしっこだとすぐに理解出来た。
楓「この前のバスに乗った時の!! ちゃんと駅のトイレまで我慢出来たんよ。初めて1000ml超えたで!!笑」
生き生きしながら話す楓を見て、僕はどんな反応をするのが正解なのかと頭を抱えてしまっていた・・・。
〜つづく〜
次の話はこちら→第17話 話し合い
前回の話はこちら→第15話 相談事
はじめから読みたい方はこちら→第1話 無口な美少女
オススメ
妄想部屋の平均閲覧回数は1,000回前後なのですが、この話は驚異の4,000回越えです。なんでそんなに人気があるのか分かりません笑
ハロウィンが近いと気が付き、時の流れの早さに驚愕・・・。

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