カラカラーーーーン!!
ここは東京都内のとあるバー。まだ明るい夕方だというのに、とある女子2人が開店直後に飛び込みでお店にやってきた。
凪紗「すいませんーーん!!もう営業してますかーーー?」
バーテンダー「たった今オープンしましたよ!!いらっしゃいませ!!何名様ですか?」
凪紗は後方を向いて、連れであるもう一人の女の子の手を引っ張った。
凪紗「2人なんですがすいません!!この子、私と同じ22歳なんですが、一応身分証も持っているのでお願いします!!」
手を引っ張られてお店に入ってきたのは、とても顔の幼い身長150cmもない女の子だった。雫と言う名前の彼女は、見た目年齢が中学生くらいと言っても過言ではない。
バーテンダー「失礼ですが念の為、年齢確認よろしいですか?」
雫「・・・はい。確か原付の免許証が・・・」
雫は小さいバッグから財布を取り出し、そして免許証をバーテンダーに見せた。
バーテンダー「大変失礼致しました。只今他のお客様はいらっしゃいませんし、本日はご予約もありませんので、お好きなカウンター席へどうぞ!!」
2人は顔を合わせて、適当にカウンターの左端に腰掛けた。
凪紗「あのすいません!!ここってSNSとかで投稿されてた3リットルの特大ビールジョッキが置いてる店ですよね?」
バーテンダー「ご用意しております。ご注文されますか?」
バーテンダーは凪紗の顔を見ながらそう尋ねた。
凪紗「いや私はビールが苦手で、特大ビールはこの子が・・・」
凪紗は手を雫に向けながらそう言った。
バーテンダー「お客様がビールを飲まれるんですか?」
男性のバーテンダーは驚いた様子だった。彼女はいかにもジュースしか飲まなそうな見た目で、とてもビールが飲めるとは思えない。
凪紗「今日、この子が3リットルのビールを飲みたいって言うから私ついてきたんです!!この子凄いビール好きなんですよ!!ねっ?」
雫は恥ずかしそうにしながらコクリと小さく頷いた。
バーテンダー「失礼かもですがビールはちょっと意外でした笑」
凪紗「ほらねーー!!店員さんもビックリしてるよー笑」
バーテンダー「3リットルの特大ジョッキは1杯5,500円ですが、10分以内に全て飲み切れば無料になります。チャレンジされますか?」
雫「はい!!」
バーテンダー「挑戦される前に注意点があります。短時間に大量のアルコールを摂取されるチャレンジですので、万一吐いたりされた場合は清掃料としてご飲食代とは別に10,000円頂きます。チャレンジを成功された場合でも、そのチャレンジは無効になるので予めご了承ください。宜しいですか?」
凪紗「本当に大丈夫?ロング缶6本分だよ?」
雫「大丈夫です。お願いします!!」
バーテンダー「お客様は何にされますか?」
凪紗の顔を伺いながら、バーテンダーは注文を聞いた。
凪紗「えっとー、それならカシスオレンジを1つ!!」
バーテンダー「かしこまりました!!」
オシャレなBGMが流れる店内で、2人は注文したカクテルとビールが来るのをワクワクしながら待っていた。
バーテンダー「はじめにカシオレから作らせていただきます。まずはこちらを搾っていきますね!!」
バーテンダーは冷蔵庫からオレンジを取り出し、搾り器で皮ごと潰していった。
凪紗「えっ!!搾るところからですか?凄い!!本格的ーー!!」
喜ぶ凪紗を横目に、バーテンダーはシェイカーにカシスリキュールと搾りたてのオレンジジュースを入れ、手慣れた様子でシェイクしていった。シャカシャカとカクテルの混ざる音が店内に鳴り響く。
凪紗「すごーーい!!プロがカクテル作るの初めて見た!!」
凪紗は思わず一人で拍手をしていた。そんな彼女の様子を見てバーテンダーも笑顔になった。
バーテンダーはグラスに大きな氷を入れて、その氷をグラスの中で高速に回転させた。その回転が止まる頃、タイミング良くシェイカーを開けてトクトクトクと音を立てながらグラスにカクテルを注いでいく。
最後に飾り付けを乗せてストローを差し、カウンターからスライドさせる形でグラスが凪紗の前に置かれた。
バーテンダー「お待たせ致しました。カシスオレンジでございます。」
凪紗「スゴーーーい!!やっぱり居酒屋と違って、バーは演出があるから凄く楽しいです!!笑」
バーテンダー「ありがとうございます!!笑」
そんな演出のあるカクテルとは対照的に、雫が頼んだビールはサーバーからグラスに注ぐだけだった。バーテンダーもかなり重そうにグラスを抱き抱えている。
バーテンダー「お待たせ致しました。こちらが特大ビールジョッキでございます。」
2人は向かい合って乾杯をしようとしたが、ジョッキが重すぎてそんなことは出来なかった。
バーテンダー「ご希望でしたら専用のストローをご用意いたしますが、いかがでしょう?」
雫「重たくて持てないのでお願いします。」
雫がそう頼むと、バーテンダーはかなり長くて太いストローを持ってきた。どうやらこれは持たなくても飲めるようになる、特大ビールジョッキ専用の特注ストローらしい。
バーテンダー「それでは制限時間は10分間です。用意はいいですか?」
キッチンタイマーを10分にセットし、バーテンダーは表示画面を2人に見せていた。
雫「お願いします!!」
バーテンダー「用意・・・スタートです!!」
ピッ!!
キッチンタイマーの開始音が鳴ると同時に、雫はストローで一気にビールを吸い込み、自分自身の胃袋へと流し込んでいった。
凪紗「頑張れーーーー!!」
チビチビとカシオレを飲みながら、凪紗は雫を大声で応援していた・・・。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
雫「ビール自体はかなり美味いんだけど・・・正直味わってる時間がないよ!!笑」
よほどビールの味が気に入ったのか、飲む前と比べてテンションが少し上がっている雫だった。制限時間は残り3分を切ったところでビールはまだ500mlほど残っている。はじめに一気飲みをするスタートダッシュは決まったが、そのペースも徐々に落ちていった。
凪紗「凄いじゃん!!まだあと3分あるからいけるって!!」
雫「あと少しなのに・・・もう入らない!!」
そこからは一口も進まないまま時間だけが流れた。残り1分になろうという時、雫は覚悟を決めて残り500mlのビールを無理やり口に流し込む・・・しかしやはりもう入らない。
凪紗「頑張れ!!頑張れ!!」
雫「うっっ・・・」
雫は涙目になりながら下を向いた。
凪紗「ほらあと20秒だよ!!急にストップするからもう時間ないじゃん!!」
雫「凪紗ごめん。あと少しだけど・・・もう入らないよ・・・」
ピピピピピッッッッ!!
バーテンダー「残念ですが・・・お時間です。」
残り約200mlを残して、雫のチャレンジは失敗に終わった。
凪紗「あとコップ一杯くらい。もう少しだったのに・・・」
バーテンダーは鳴り響くキッチンタイマーを止めた。店内はまたオシャレなBGMだけに戻る。
雫「悔しいーーー!!もう少し!!あともう少しだったのにぃーーー!!」
大声で悔しがりながら特大ジョッキを抱き抱える雫。そんな様子を見ていたバーテンダーは、そのジョッキの中身を見ながらこう話しはじめた。
バーテンダー「失敗されたとはいえ、女性でここまで飲まれる方は初めてでした。十分に自信を持たれていいと思います!!」
雫は変わらず悔しい表情を浮かべていた。凪紗はバーテンダーの表情がこの辺りから急に変わったことに多少の違和感を抱いたが、何も言えなかった。
バーテンダー「そうですね。今日はまだ店内はお客様だけですし、ちょっとご提案があります。」
バーテンダーはそう言いながら、入り口の扉を「OPEN」表示から「Private rental(貸し切り)」へと切り替えた。さらに扉の鍵を閉める様子を見て、凪紗は少し恐怖を覚えた。
凪紗「提案?・・・なんですか?」
バーテンダー「チャレンジ失敗者の為の、救済措置に挑んでみませんか?」
凪紗「いや、だってもうこの子は飲めないですよ?」
バーテンダー「もう飲まなくて結構ですよ。むしろ好きにされてください。」
凪紗「はい・・・?」
バーテンダー「今から2時間が経過するまでこのお店から出なければ、特大ビールにチャレンジされたお客様はもちろん、お連れ様も全て無料にして差し上げます。さらにその間は店内のドリンク、そしてフードも頼み放題です。いかがですか?」
凪紗「何のチャレンジですか?何ですかそれ?ねぇ!!雫はどうするの?」
雫「無料ならいいんじゃないの?2時間いるだけでいいんでしょ?」
凪紗はバーテンダーの行動が不審に見えた。しかし雫はあっけらかんとした様子で、ジョッキに残る少量のビールと、下に落ちていくその泡の流れを見つめていた。
凪紗「何か急に怪しくない?何か企んでる?」
凪紗は小声で雫に耳打ちをした。しかし雫は全く怪しむ様子もなかった。
雫「夜遅くの待ち合わせまで中途半端に時間余るよねってさっき話してたじゃん!!2時間くらいなら時間も合うし、ちょうどいいんじゃないの?」
凪紗は乗り気じゃなかったが、雫はただバーテンダーに言われるがままだった。
バーテンダー「でしたら、先ほど使用したキッチンタイマーを今から2時間に設定いたします。ただ鳴るのを待つだけですから、それまではご自由におくつろぎください。」
凪紗「本当に2時間食べ飲み放題なんですか?後から請求とかないですよね?」
バーテンダー「一切ございません。ただ部屋に居るだけでチャレンジは達成されます。」
凪紗は首を傾げながら壁に掛けられている時計を見た。時刻は18時20分を指していた。
バーテンダー「それではスタートです!!」
ピッッ!!
まだしっかりと2人から了承を得ていないにも関わらず、なんとバーテンダーは勝手にタイマーをスタートさせた。
バーテンダー「お品物はこちらからご自由に選んでいただいて結構です。繰り返しになりますが、飲食の代金は一切いただきません。」
バーテンダーはカウンターに置かれていたメニュー表とは別の冊子を差し出した。様々なフードやドリンクの記載があるが、金額の欄は全て「FREE」と書かれている。
凪紗「何の為ですか?何で急にこんな事を勧めてきたんですか?」
バーテンダー「お客様がとても楽しそうにされているのを見て、こちらも楽しくなってしまいました。今日はとても気分がいいので、チャレンジが成功されれば本日の飲食代は全て私の奢りとさせていただきます。」
凪紗「・・・・・・???」
怪しい表情を浮かべるバーテンダーの様子はもはや、お店に入った時とは全く違う雰囲気に変わっていた。しかし凪紗は何も出来ず、ただ隣にいる雫が楽しそうにしているのを見ることしか出来ない。
バーテンダー「実はこのバー、狭いですが結構仕掛けがありまして、プロジェクターもございます!!」
ウィーン・・・
バータテンダーがリモコンの操作をすると、音を立てて天井から真っ白なスクリーンが降りてきた。
バーテンダー「荷物はそのままでよろしいので、こちらへどうぞ!!」
カウンター向かいのテーブルに案内された2人は、そのままイスに腰掛けた。
雫「わぁあ!!もしかして映画とか観れますか?」
バーテンダー「もちろんご覧いただけます!!」
雫「やったーーー!!だったら凪紗がこの前観たいって言ってたヤツを観ようよ!!旧作だし多分あるでしょ?」
凪紗「確認ですけど店員さん、映画の視聴に料金を取るとかじゃないですよね?」
バーテンダー「もちろんでございます。映画の視聴も一切料金はいただきません。」
未だ腑に落ちない様子の凪紗だったが、隣の雫はウッキウキで映画の検索を進めていた。
雫「バーテンダーさんの奢りなら存分に楽しもうよ!!楽しまなきゃむしろ勿体ないし!!笑」
満面の笑みを浮かべてリモコンを操作する雫を見ていると、次第に彼女の考えも変わっていった。
凪紗(雫がいいなら・・・まぁ大丈夫か・・・)
さすがの凪紗ももうこれでいいかと考えるようになったが、気が付けばバーテンダーの男性は見当たらなかった。キッチンの奥の方に入って行ったのは見えたが、なんとそこから数分経っても帰ってこないのだ。
凪紗「すいませーーーん!!注文したいんですけどーーー!!」
しばらく大きな声を出してはみるが、やはりバーテンダーの反応はない。凪紗の額にジワーーーっと汗が滲み始める・・・。
凪紗「ねぇ?どうしたのかな?店員さんの気配が全くないんだけど?」
雫「トイレなんじゃない?もう少し様子を見てみようよ!!」
雫はそんな事を言いながら、再生した映画に夢中だった。しかしここで凪紗はとんでもない事実に気がついてしまったのだった。
凪紗「・・・ねぇちょっと待って!!私のスマホがないんだけど!!」
雫「何で?カウンターとか?」
凪紗「それがないのよ!!ポケットにもバッグにもないし・・・」
凪紗は焦った様子で辺りを探し始める。
雫「それなら私が凪紗の携帯にかけてみるよ!!」
雫はそう言って立ち上がった。しかしカウンターに目をやってもスマホはない。雫も凪紗と同様に、焦った様子でポケットや鞄の中を探し始めた。
雫「待って・・・私もカウンターの上にスマホ置いたの覚えてるんだけど・・・何でないの?」
凪紗「ねぇ待って!!どうしよう!!扉が開かない!!」
すると今度は凪紗が必死に扉のドアを開けようとしていた。全力で押しても引いてもピクリともしない。慌てて雫もドアノブに手をかけるが、やはり開かないままだった。2人は不安な表情で見つめ合う。
凪紗「ねぇ、私達って・・・」
雫「もしかして、閉じ込められた・・・?」
連絡手段を失った2人は、誰もいない狭いバーに閉じ込められてしまった。キッチンタイマーは残り1時間55分と表示されていた・・・。
〜つづく〜
続きはこちら→チャレンジ!!3リットル特大ビールジョッキ早飲み!! ~後編~
オススメ
警察ってなんであんなに人の時間を奪っているっていう自覚がないんでしょう?
地味ーーーーに女の子の名前に拘っている僕ですが、何気に漢字も含めて一番気に入っているのは、今のところこのお話に出てくる依舞ちゃんでございます。娘が出来たらこれにしようかな笑

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