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【妄想長編小説】白いストラトキャスター ~最終話 またな?~

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楓「なぁお兄ちゃん!! 今日もダメなん?明日も?」

大輔「ダメや!! お兄ちゃんは毎日勉強せなアカンで!!」

小学6年生の楓は、受験を控える高校3年生の兄(大輔だいすけ)と遊びたがっていた。

楓「そんな毎日、勉強ばっかして何が楽しんや・・・。」

大輔「楽しい訳ないわ!! 集中したいから出てって!!」

母「カエ!! 大輔は今、本当に大事な大事な時期なの。遊んでる時間はないのよ!!」

すかさず母親はそんな楓を注意した。12歳の彼女にとって、毎日勉強に励む兄が理解できなかったのだ。

楓「いつになったらユニバに連れてってくれるん?」

大輔「受験終わったら連れてってあげるから、もうお兄ちゃんの邪魔はせんといて!!笑」

楓「ホンマに?約束やで?」

大輔「約束は守るわ!! だってカエのお兄ちゃんやで?笑」

楓「いひひーーーー笑」

頭を撫でられて満足気な楓は、大が付くほどのお兄ちゃんっ子だった。

楓「それやったら、受験終わるまで我慢する!!」

大輔「カエはいい子やなー笑」

楓「楽しみにしてんで?笑」

そう言って、楓はやっと兄の部屋から出た。ただ一つ、兄との約束が果たされることを条件に・・・。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

楓「なぁ?今日もアカンの?」

大輔「ごめんカエ!! 今日は高校の卒業パーティーなんよ。ユニバはまた今度にしよか!!」

楓「前も今度って言うたやん・・・。」

兄のセンター試験と2次試験が終わり、楓は毎日のように兄を誘っていたが、この日も断られてしまった。

大輔「それやったら事前に日付を決めよか!! 来週の土曜日でどうや?」

楓「約束やで?ウチ、ホンマに楽しみにしてんねん!!」

大輔「分かった約束な!!」

楓は、自分と違って友達の多い兄が自慢だった。そんな兄が高校のクラスメイトに溶け込んでいる様子を見るのも嬉しかったので、彼女はこの時もグッと我慢をしていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

大輔「ごめんなカエ!! 追加の後期試験を受けないとダメになったんよ。」

楓「ホンマにええ加減にせえや!! お兄ちゃんの嘘つき!!」

約束の土曜日。2次の前期試験が不合格になってしまった兄は、後期試験に臨むために楓との約束をすっぽかして勉強するハメになってしまった。

母「カエ!! これは仕方ないことなの!! 大輔が大学生になったら連れてってくれるわよ!!」

楓「もうなんべんも延期してんや!! もう信じられへん!! お兄ちゃんのバカ!!」

楓は泣き乱しながら怒っていた。顔を真っ赤にして、勉強している兄の後ろで何度も叫び続けていた。

大輔「そやからごめんって言うてるやん!! 俺だってまた受験なんて嫌や!! カエがプレッシャーかけるからやろ?」

楓「何でウチのせいなん?それやったら、もう勉強なんかせんでええやん!!」

大輔「ユニバは来年度連れて行くから!!」

楓「そんなんもう信じられへん!! お兄ちゃんなんか大嫌いや!!」

楓は部屋着のまま家を飛び出した。そして玄関を閉める寸前に、兄に向かって言ってはいけない、決して口にしてはいけない言葉を、楓はただただ感情に任せて叫んでしまったのだった。

バタンッッ!!

楓はマンションのエレベーターを駆け足で乗り込んだ。仲良かった兄と喧嘩をするのは、生まれて初めてのことだった・・・。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

楓(お兄ちゃんに、あんな事言うてもた・・・。)

兄と言葉を交わすことがないまま、一週間が経過した。仲直りをしたいと考えてはいたものの、楓にそんな勇気は出ず、ずっと謝りたい気持ちを胸にしまっていた。

母「はい・・・はい!! 分かりました。すぐにタクシーで向かいます!! はい!!」

そんな時、楓の母親は驚いた様子で電話をしていた。兄の後期試験が無事終わり、新幹線で帰ってくる兄を父親が車で駅まで迎えに行っていた。しかし時間になっても2人は帰ってこない。

母「カエ!! 父さんの運転する車が事故を起こしたって!! 急いで病院に行くよ!!」

驚いた楓は、母親と一緒に、急いで兄と父親が運ばれた病院へとタクシーで向かうのだった・・・。

医者「旦那様はかなり危険な状態です。」

母「息子は?息子の大輔は?」

医者「残念ながら・・・息子さんはその場で死亡が確認されました。ご遺体が激しく損傷されていて、とても見せられる状況ではありません。」

楓と母親は言葉を失った。今朝まで元気に電話で「帰る」と言っていた兄の声が鮮明に蘇る。一体何が起こったのか、2人は全く理解できなかった・・・。

楓(ウチのせいや。ウチがあんな事言うたから・・・ウチのせいや・・・ウチのせい!!)

もちろんそれは、ただの偶然だった。口は災いの元とは言うが、12歳の少女にとって、それはあまりにも残酷過ぎる仕打ちだった。

楓「ハァーーーーー!! ハァーーーーー!! ハァーーーーー!!」

母「カエ?どうしたの?カエ?」

気が付けば楓はその場でうずくまり、激しい呼吸を抑えようと、左手で必死に胸を押さえていた・・・。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

楓(ウチは、何のために生きているんやろう・・・?)

事故から数ヶ月が経った楓は、ずっと家に引きこもる毎日を送っていた。兄の葬式に参加する事もできず、中学の入学式すら欠席したまま、一度も家から出ることはなかった。

生死を彷徨っていた父親も、事故から数日後に帰らぬ人となったが、その頃には既に事故の原因が判明していた。

それは父親が病院に搬送された際の血液検査で、検出されてはいけないアルコールが確認されたのだ。それも基準値を大きく上回っている。そんな病院の記録に、警察が目をつけたのは数日後の事だった・・・。

事故内容は右直事故によるもので、相手方も1人帰らぬ人となってしまった。保険会社は被害者に保険金を支払ったが、数ヶ月後に事故原因は父親の重過失と断定し、楓の母親宛に保険金の全額返金を求める求償通知が届いた。

求償通知の中に記されている金額は、億に迫るほどだった。もちろん楓の家族にそんなお金があるはずもない・・・。

楓(ウチがあんな事言うたからや。何もかもが・・・ウチのせいで一瞬で壊れた・・・。)

毎日のように楓は自分を責めていた。そんな時、窓のカーテンから溢れる眩しい外の光が、楓の目に映ったのだった。

楓(・・・そうや。ここから飛べば、お兄ちゃんに会える・・・簡単な事や・・・。)

楓はゆっくりとカーテンを開き、ドアを開けてベランダに出た。家はマンションの15階。ここから飛び降りれば、ほぼ間違いなく命を落とす高さだ。

楓(怖いけど、ホンマに怖いけど・・・勇気を出せば・・・っ!!)

気が付けば、楓はベランダのフェンスによじ登っていた。片足を震わせながら、フェンスの外側に体が移動していく・・・。

母「バカーーーーーーッッ!!」

パンッッッ!!

楓「いったぁーーーーっ!!」

間一髪のところで、母親はフェンスによじ登る楓を抱き抱えた。ベランダの床に尻もちをつく楓に、母親は目いっぱいのビンタをして、すぐに楓に覆いかぶさるように上から強く抱きしめた。

母「ごめんね。辛いよね・・・辛いよね・・・。」

楓「離してやっ!! 離して!!」

母「こんな高い所から飛び降りたら、カエも大輔みたいに・・・グチャグチャになっちゃう・・・。」

赤くなる楓の頬に、一滴の涙が落ちた。それは楓の涙ではなく母親の涙だった。驚いた楓は急に落ち着きを取り戻し、静かになって目を開いた。母親の泣き顔を見るのは、生まれて初めてだ。

母「辛いよね・・・辛いよね・・・。」

母親の涙は何滴にもなって、楓の顔にポトポトと落ちていく・・・。

楓(そうや・・・母さんやって辛いんや。父さんとお兄ちゃんが死んでもたんやから。当たり前や・・・。)

自分の事しか考えてなかった楓は、この時初めて、母親も辛い思いをしているのだと知った。

母「あのね。本当はね。母さんもこの前までカエと一緒に死のうって、本気で考えてたんよ・・・でもね、最近こう思うようになったの。あの時、車にカエが乗ってなくて良かったって・・・。カエもいなかったら母さん、それこそ絶対に自分で死を選んでたよ!!」

横になっている楓を起こして、母親はゆっくりと、しかし強く楓を抱きしめた。

母「でもカエは生きてる!! 生きてくれてる!! だからこの先、何年、何十年かかるか分からないけど・・・一緒に”生きてて良かったね!!”って笑い合える日が来ることを・・・信じよう!!」

強く抱きしめる母親を、今度は楓が強く抱きしめ返した。

母「カエ・・・愛してる!!」

楓「・・・うん。」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

楓「この前はその・・・変な事してごめん・・・。」

それから数日後、リビングで母親と夕食を食べていた楓は、母親に謝った。

母「・・・変な事じゃないよ。カエだって辛いのは痛いほど分かるから・・・。」

楓「ううん。ウチはウチの事しか考えてへんかった。今では母さんと一緒に今を乗り越えていきたいって考えに変わった!! そやから大事な話があって・・・その、ホンマに大事な話!!」

覚悟を決めた楓の表情を読み取った母親は、一旦箸を置いて真面目に楓を見つめた。

楓「ウチ・・・これからどうやって生きていけばええのか分からへんから、その・・・一つの目標を立てよう思て。」

母「目標・・・?」

そう言って楓は椅子に隠していた1枚の紙切れを母親に見せた。その紙切れは、もうこの世にいない兄の合格を知らせる、大学からの合格通知だった・・・。

楓「今日から毎日必死に勉強して、お兄ちゃんが行くはずやった大学に行きたい!!」

母「・・・・・・簡単じゃないよ?でも・・・頑張りなさい。」

淡白な返事で済ませた母親だったが、心の中では泣きそうだった。そしてこの日を境に、楓は徐々に学校に行くようになり、家でも学校でも、毎日欠かさず必死に勉強を続ける日々を送るのだった・・・。

楓「・・・今はもう、ウチのせいでお兄ちゃんが死んだとまでは思ってへん。あれは明らかに父さんのせいやもん。」

楓は僕に全てを話してくれた。彼女が毎日欠かさず勉強をする理由、思春期に起きた出来事による、強いストレスやトラウマ、それが原因で人に話す事を躊躇う理由・・・今まで疑問だった楓の特徴が全て繋がったような、そんな気がした。

楓「そやけど仲直りもできひんまま、お兄ちゃんと別れてもたのが・・・ホンマに、ホンマに悔しくて!!」

楓は泣き乱していた。そんな彼女につられて僕も涙が溢れてしまった・・・。

楓「お兄ちゃんとケンカしてた時は、お兄ちゃんのウチに対する態度もヒドいと思っとった。そやけど今では・・・あの時のお兄ちゃんの気持ちが痛いほど分かるで。」

楓「だって・・・こんなに大変やと思わんかった!! こんなに勉強が大変で、こんなに苦しい思いをお兄ちゃんはしてたのに・・・ウチは、ウチはあんなヒドい事を言うてしまって・・・!!」

僕は楓にかける言葉が見つからなかった。彼女はこれまでどれだけ辛い思いをしていたのだろうか?どれだけその気持ちを閉じ込めてきたのだろうか?

楓「勉強してお兄ちゃんに追いつこうと思ったんはウチのエゴや。もしかすると天国におるお兄ちゃんは、ウチが同じ大学に受かった事を、喜んではくれてへんかもしれへん。そやけど少し・・・ホンマに少しだけやけど・・・」

楓「楽になった気ぃするで・・・。」

少しだけと彼女は言っていたが、恐らくかなり精神的に楽になったのだろうと察した。気が付くと、ずっと泣いていた楓は少しだけ笑顔になっていた。

楓「そやから、ウチはもうお兄ちゃんを追いかけるのは止める!! どんなにお兄ちゃんを追いかけたって、ウチはお兄ちゃんになれへん。だってウチはお兄ちゃんやないもん。ウチは楓なんや!!」

そして楓はベンチから立ち上がり、僕に向かってこう言ったのだった。

楓「これからはウチの人生や!! 大学もちゃんと4年で卒業するし、人並みに恋愛して、遊んで、結婚して、子供産んで、子育てして、孫の顔見て・・・そして、この命を・・・全うしたら・・・」

僕は顔を隠して大泣きをしてしまった。18歳とはとても思えない精神力だと感じた。僕と楓はそれからも何時間と話し続け、気が付けば空は明るくなり始めていた・・・。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

楓「朝になってもうた!!笑」

僕「いやマジでヤバすぎ!!笑」

元々夜でお別れをする予定だった2人は、結局、朝になるまで語り明かしていた。徹夜の楓にすまないと思いつつも、僕は最後にこんなお願いをするのだった。

僕「最後にお願いなんだけどさ、その・・・抱きしめてもいい?・・・///」

唐突にそんな事を言ってしまい、僕は顔が赤くなった。本当になんてお願いなんだろうとは自分でも思ったが、楓はやれやれといった表情で、こんな返事をしてくれたのだった。

楓「・・・・・・一回だけやで?笑」

2人は長時間座っていたベンチから立ち上がって向かい合った。そしてゆっくりと楓を抱きしめた。初めはされるがままだったが、しばらくすると彼女の方からもゆっくりと僕を抱きしめてくれた。

楓「・・・ホンマに感謝してるで?」

僕「俺の方こそ・・・。」

楓「・・・尊敬もしてる。」

僕「俺の方こそ!!笑」

楓の細い体は温かった。僕はまた涙が出てきたが、バレないようにそれを必死に誤魔化していた。

僕「俺・・・もう行くよ。」

楓「うん・・・元気でな?」

熱いハグを交わした後、僕は急いで自転車のスタンドを蹴った。怖くて楓の顔を見ることすらできない。

楓「下腹部さん!!」

何も言わず、急いで自転車を漕ぎ出す僕を、楓は呼び止めた。

楓「・・・・・・またな?」

問いかけるような言い方で、楓は僕にそう言った。しかしそれでも僕は、怖くて振り返ることができなかった。

僕「おう・・・あと1万回は会おうぜ!!笑」

振り返ることもなく、笑って誤魔化しながら、こんな返事をするので精一杯だった。僕は涙を拭いながら、全力で自転車を漕いだ。辺りはもう明るくなっているのにの関わらず、クシャクシャの泣き顔になりながら、僕はただただ全力で自転車を漕ぎ続けるのだった・・・。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

市役所職員「婚姻届を受理いたしました。本日は誠におめでとうございます!!」

それから4年半の月日が流れ、僕は彼女であるまなみと婚姻届の提出を済ませた。まなみはたった今、彼女ではなく妻になったのだ。

まなみ「さっきの婚姻届の写真欲しい?」

僕「欲しい!! 人生の節目だから俺もSNSに上げるよ!!笑」

手続きを済ませた僕とまなみは、市役所の駐車場へと歩いて行った。今日は特別なレストランの予約もしており、結婚指輪を選ぶ予定もある。

まなみ「あっ昨日、アンタが泣いてた曲がまた流れてるよ?笑」

車内にはあの時の、楓と一緒に演奏したELLEGAR◯ENのAlternative Pla◯sが流れていた。

もちろん今ではまなみの事が大好きだが、この曲を聴くと、楓のあの掠れた声が、真面目にギターを弾く表情が、一緒に電車を待ったあの待合室が、一緒にセッションをしたあの瞬間が、あの大阪弁のイントネーションが、そして笑顔が・・・全てを思い出してしまい、僕はどうしようもなく切ない気持ちになってしまうのだ。

ピコーーーーーーーン!!

その日の夜、家でゆっくりしていた僕のスマホが鳴った。誰からだろうと通知を見てみると驚いた。なんと4年ぶりに楓からLINEが届いたのだ。

楓「結婚したん・・・?笑 おめでとう!!笑 乃々華から聞いたで?笑」

SNSに上げて1時間ほどで、もうそんなに情報が広まったのかと僕は笑ってしまった。

僕「情報早すぎだろ!! ありがと!!笑」

楓「乃々華は相手が誰か分からん言うてたから、ウチも下腹部さんが上げてた写真見たけど、まなみちゃんと結婚したん?ウチ、ホンマに仰天したで?笑」

それからしばらく楓と近況報告を語り合った。彼女は言った通りに大学を4年で卒業し、今では2歳年下の彼氏と、どうやらうまくいっているらしい。

彼女なんとこのタイミングで、年下の男性しか異性として見れないと言っていた。この期に及んで、とんでもないカミングアウトをするもんだ・・・笑

楓「それにしてもホンマにビックリや!! 幸せそうで良かった!!笑 そやけど一つだけ言いたい事あんで?笑」

僕「・・・何?笑」

楓「下腹部さんは、ウチとウチのお兄ちゃんと一緒や!!笑 あの時、1万回も会おうて言うたんに!!笑」

僕「・・・どゆこと?笑」

言っている事が理解できなかった僕はすぐに聞き返した。すると楓から、こんな返事がすぐに届いたのだった。

-『白いストラトキャスター』完-

最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。今回も長編小説の恒例行事である、おまけページがあります。

実話をもとにした長編は初めてなので、どの部分が実話だったのか、逆に僕の黒歴史をおしっこで抹消させた話や、楓と乃々華の現在など盛りだくさんな内容となっておりますので、ぜひご興味のある方はのぞいてみてください。

※おまけページは特別編です。最後までご覧になっていただけた方だけの限定ページなので、サイト内の最新記事やサイトマップには載せません。この文章を読んでいる方だけがたどり着けるページとなっております。

おまけページはこちらからどうぞ→第26話 あとがき

はじめから読みたい方はこちら→第1話 無口な美少女

前回の話はこちら→第24話 2人きりのセッション

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