紗柚「ごめん遅くなって!! もしかして・・・結構待った?」
颯「なんだよ!! 連絡入れないから怒ってるのかと思ったよ。俺も今来た!!笑」
ここは九州地方の宮崎県延岡(のべおか)市。宮崎県で3番目に多い11万人の人口を抱える県北の中枢都市だ。そんな延岡市内の大学に通う大学生の颯(はやて)は、同じ大学に通う1つ年下の紗柚(さゆ)と、待ちに待った初デートにありつけたのだった。
颯「言われた通り早速ランチにするけど、お待ちかねの辛麺だよ?大丈夫そ?」
辛麺(からめん)は宮崎のソウルフード。ニンニクとニラが効いた旨みたっぷりのスープに、あっさりとしたこんにゃく麺が絡む人気のグルメだった。
紗柚「大丈夫!! ずっと楽しみにしてたもん!! ニンニクとニラだから後の匂いが気になるけどー」
颯「口臭対策はしっかり持ってきたから安心して!!」
そんな会話をしながら2人は、JR延岡駅の東口を出発した。
颯「下関に辛麺ってないんだよな?」
紗柚「当たり前!! 一応最寄りの店舗は門司(もじ)にあるけど、そもそも下関どころか山口県にないから、宮崎来た時からずっと気になってた!!」
颯「門司って何?どこ?」
紗柚「北九州だよ!! 北九州市門司区!! えっ知らないの?」
颯「俺は生粋の延岡市民だぞ?福岡の事なんて分かるかよ!!笑」
紗柚「同じ九州なのに・・・」
颯「むしろ下関の方が北九州って身近だもんね。俺、福岡とかもう数年行ってないわ」
紗柚「宮崎の人ってみんなそんな感じなの?」
颯「まぁそうじゃない?福岡には憧れるけど、単純に遠いからあんまり馴染みがないと言うか・・・」
紗柚「ふーーん」
駅から歩いて10分ほど、目的のお店に到着した2人は店内に入った。時刻は14時半頃と昼ピークを過ぎたところ。
店員「いらっしゃいませー!!」
颯「2人です」
店員「2名様ですね!! こちらへどうぞ!! 2名様ご来店でーす!!」
店員「いらっしゃいませーーー!!」
2人は奥のテーブル席に案内された。
紗柚「うわー!! たくさんメニューあるんだね!!」
颯「トマトとチーズのヤツも美味いぞ?替え玉の代わりに最後はご飯を入れて、リゾットにしてもメチャメチャ美味いからオススメ!!」
紗柚「美味しそう!! でもどうせなら颯と一緒のメニューが食べてみたいなー」
颯「いや流石に同じのだって、辛さは真似しない方が・・・」
そうこうしていると、店員さんがお冷を持ってきた。
店員「いらっしゃいませ!! ご注文はお決まりですか?」
颯は紗柚に合図を送った。紗柚は首を縦に振ったので、彼はそのまま注文に入った。
颯「辛麺の25辛のこんにゃく麺でお願いします!!」
店員「25辛のこんにゃく麺ですねー」
メモを取る店員を驚かせたのは、この後の紗柚のセリフだった。
紗柚「それなら、私も同じ25辛でこんにゃく麺・・・」
すると途端に、颯は大声で叫んだ。
颯「やめろって!! 同じのがいいってさすがに25辛は無理だ!! 3辛でも十分辛い!! 辛いのが得意と自称しているヤツも、せいぜい10辛までが限度だよ!! 25は絶対に無理だって!!」
そんな颯に便乗するように、店員も続けた。
店員「そうですね。辛いのが好きな方でもさすがに25は・・・初めてですと3あたりがオススメですが・・・」
しかし頑固な紗柚は、決して自分の意思を曲げなかった。
紗柚「大丈夫です!!絶対に食べきれます!!」
店員さんは不安そうな表情を浮かべながらも、メモをしながら厨房に戻るのだった。
店員「25辛2つでーす!!」
時間のせいもあり、元々空いていた店内に残るお客さんはさらに帰っていき、気が付けばお客さんは颯と紗柚の2人だけになっていた・・・。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
店員「お待たせ致しました25辛ですね!!」
紗柚「ひえーーーーーっっっ!!」

颯「だからヤバいって言っただろ?大丈夫か?」
紗柚「だ・・・大丈夫だよこんくらいっ!!」
心配する颯よりも早く、紗柚は割り箸をバチっと割った。
紗柚「いただきます!!」
彼女は手を合わせてすぐ、大きめの1口を口に運んだ。
紗柚「ズルズルズルーーーー!!」
すると案の定・・・
紗柚「ブハッ!! ゴホッッッ!! ゴホッッッ!!」
思いっきり咽せる彼女を見て、颯は一瞬笑いそうになったが、途端に心配そうな表情に戻った。
颯「大丈夫かよ?笑 だから辛いって言ったじゃん!!」
紗柚「大丈夫大丈夫!! 今度はゆっくり食べるから!!」
顔色一つ変えずに美味しそうに辛麺をすする颯とは対照的に、紗柚は顔を真っ赤にしていた。
紗柚(こんなに辛いなんて・・・予想以上!!)
箸が止まる紗柚を見て、颯は空になった紗柚のコップの水を注いだ。
颯「無理するなよそんなに。もしダメならもう一つ別のを頼んだら?残りは俺が全部食べるから」
優しい提案をする颯を見て、紗柚は多少の嬉しさがあったものの、結局自分の意地が優ってしまったのだった。
紗柚「ううん!! 自分で頼んだんだもん!! 責任持って全部食べる!!」
涙を流しながら紗柚は、目の前の真っ赤なスープを見つめていた。そして無意識にお水に手が伸びる・・・。
紗柚「ゴクゴクゴク・・・」
気が付けば紗柚は、数え切れないほどコップの水をおかわりしていた。
颯「おいおいおい、ピッチャーもう空だぞ・・・」
すると気を利かせた店員が、2人の元にやってきた。
店員「ピッチャーのお水、お取り替えさせていただきますねー」
笑顔でその場を後にする店員。2杯目のコップではなく、2杯目のピッチャーは前代未聞だ。
颯「ちょっと・・・本当に大丈夫かよ?」
紗柚は何も言わず、下を向きながら左拳を彼の前に出して、親指だけを上げてグーのポーズをするのだった。相変わらず顔は真っ赤。涙も止まらずティッシュを何枚も使い、鼻もズルズルと鳴らし続けていた・・・。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
店員「ありがとうございましたー!!」
時刻は午後4時を過ぎたところで2人は店を出た。結局完食するのに1時間以上も費やしてしまった紗柚は、疲れた表情で店員さんにお礼を言いながら手を振った。
颯「だから無理すんなって言っただろうが笑」
紗柚「でもほら、しっかりちゃんと食べたし!!」
颯はやれやれと言った様子で、紗柚を見つめた。
颯「ごめんな。俺が25辛なんか頼むから。一緒が良かったのなら俺が3辛くらいにしておけば・・・」
紗柚「いいんだって!! そんな事より次はどうするの?」
赤い目も引いてきた紗柚は、笑顔で颯の腕を掴みながらそう問いかけた。
颯「行きたいところがあるんだ。バスに乗ってその後にちょっと歩くけど、大丈夫か?」
紗柚「うん。大丈夫!!」
笑顔でそう答える紗柚の頭を撫でると、颯はバス停の時刻を検索し始めた。
2人はまた歩いていた。初デートとは思えないようなプランだったが、それが逆に2人にとっては楽で、とても楽しい時間を過ごしていたのは間違いない。
しかし紗柚はこの頃から、僅かに感じる尿意を覚えていた。お店で飲んだ大量のお水はトータルで1リットルをゆうに超えていたので、そうなるのも無理はない。
バス停までは思いのほか早く着いた。さらにバスもちょうどよく到着し、バスに揺られること約20分。紗柚の知らない場所で2人はバスを降りた。
紗柚「・・・ここは?」
颯「・・・まだ秘密だ笑」
紗柚「何それーーーー!!笑」
笑顔でそんな事を言っていた紗柚だったが、実際のところ尿意は限界に近づいていた。はじめは気のせいだと自分を言い聞かせていた尿意だったが、それはもう明らかに気のせいではなかった。
紗柚(お店でたくさんお水飲んじゃったからだ・・・)
彼女は自分が今何故、急激に高まる尿意を催しているのかを理解できていた。辺りを見渡すと1軒のファミレスがある。
「トイレに行きたい!!」
紗柚はそう言いたかった。しかしどうしても羞恥心が邪魔をする。初めてのデートでトイレはとてもじゃないが言い出しづらい。それに見えたのがコンビニではなくファミレスだったことも、言い出せない一つの要因だった。
颯「ちょっとここから歩くけど、大丈夫か?」
彼は紗柚に助け舟を出していた。もちろん助けているつもりのない颯だったが、紗柚はさっきまでの意地がまた自然と出てしまうのだった。
紗柚「う、うん!! 全然大丈夫だよ!!」
2人は急に山道になった上り坂を、手を繋ぎながら歩いていくのだった・・・。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
紗柚(どこに、向かっているんだろう・・・?)
山を登ること25分。クネクネとした道をひたすら上り続け、あたりはもう暗くなり始めていた。スマホで時刻を確認する紗柚。尿意を覚えてからもう50分は経過していた。
普段なら1時間くらいの我慢は日常茶飯事だったが、今回はわけが違っていた。さっきまで飲んでいた大量の水がおしっこに変わり、どんどん膀胱に送り込まれていく・・・。
こんな何もない山道でトイレなんかある訳がない。それもこの先どこまで続くのか分からない道でだ。紗柚は平静を装いながら、なんとか強烈な尿意に抗っていた。
紗柚「あと、どのくらい・・・かな?」
笑顔だった紗柚の顔はもう引き攣っていた。しかしそれに気付いた颯の返しは、さらに紗柚に精神的な追い討ちをかけることになったのである。
颯「もしかして・・・トイレ我慢しているのか?」
彼女はその場で固まってしまった。まさかそんな事を彼に見破られているなんて、恥ずかし過ぎて顔から火が出そうだった。1時間前の辛麺屋でもそんなに顔は熱くならなかったのに・・・。
紗柚「前から分かってたの?・・・///」
颯「いや違うんだごめん!! もしかしてトイレに行きたいのかなーって今思ったんだよ!!」
何故か今度は颯が焦り始めた。
颯「そ、そうだよな!! 辛麺屋でたくさんお水飲んじゃったもんな!! ごめんごめん俺の配慮が足りなかったよ!! 初めてのデートなのにこんな気遣いも出来なくて・・・あーーーもう俺って!!」
セットした髪の毛をグシャグシャにしながら、颯は自分を責めていた。
紗柚「颯くんは何も悪くないよ!! 全部私が悪いから!! 私こそごめん!!」
紗柚はその場で遂にしゃがみ込んだ。もう立ってしまったら出そうなほどに追い詰められていた。
颯「だ、大丈夫か?た・・・立てるか?」
彼女は完全にうずくまっていた。
紗柚「どこに向かってるの?あとどのくらいで着く?」
颯「あと10分くらいあれば、なんとか・・・」
紗柚「そこにトイレは・・・ある?」
颯「あぁ・・・あるさ。間違いなくある!!」
紗柚は下半身に力を入れて立ち上がった。一瞬溜まっていたものが漏れてきてしまいそうだったが、なんとか耐えて歩き出す。
颯「もし、あれなら・・・おんぶしていこうか?」
彼は顔を真っ赤にしながら、そんな事を言うのだった。
紗柚「いやいいよ!! そんなの恥ずかし過ぎる!!///」
どんな時でもやっぱり意地っ張りな紗柚は、彼の言うことを聞かずに自分の力で歩き出した。
颯「大丈夫か?」
さっきまで辛い物を食べている紗柚を心配していた颯は、今度は尿意を我慢する紗柚を心配していた。
紗柚「大丈夫・・・だと思いたい。あと10分!! あと10分だけ私の膀胱が頑張ってくれれば・・・!!」
そこから2人は無言だった。前屈みな姿勢でトコトコと歩く紗柚の体を、颯はしっかりと支えながら歩き続けた。すると予想よりも早く頂上の駐車場が見えてきた。
颯「ここだ!! 頂上が見えたぞ!!」
紗柚「だめ!! そんな事言わないで!! 安心して漏れそうになっちゃう・・・!!」
紗柚は相変わらず、颯に支えられながらトコトコと歩いていた。なるべく膀胱を刺激しないように、なるべくおしっこの事は考えずに駐車場の敷地内を踏み入れた。
颯「トイレ!! トイレはここだよ!!」
彼は駐車場の側にある公衆トイレを指差した。お世辞にもキレイとは言えないトイレだったが、今の紗柚にとってはそんな事、どうでもよかった。
紗柚「ありがとう!! もう大丈夫!!」
彼女は颯の支えを振り切り、一人でテクテクとトイレに向かって歩き出した。気を利かせて颯はついて行こうとしたが、すぐに紗柚にこう言われたのだった。
紗柚「ダメ!! 着いてこないで!! 恥ずかしいから!!」
その言葉でピタッと止まる颯は、その場で立ち尽くしてしまったが、彼女がトイレに入ったことを確認すると、忍び足で女子トイレの入り口に近づくのだった。
彼はトイレの音を聞こうなんて、はじめは微塵も思わなかった。しかし彼女の一言で逆に聞いてみたいと思ってしまっていたのだ。
ガタンッッ!! ガチャッ!!
紗柚がトイレに入る音、そして個室の鍵を閉める音が聞こえてきた。辺りを見回す颯。幸い周りには誰もいない。
しゅるしゅるしゅる〜〜〜〜
しばらくすると、勢いのない弱めの放尿音が聞こえてきた。そして数秒後、
シュイーーーーッッッ!!
待ってましたと言わんばかりに、今度は勢いよくおしっこが飛び出す音が聞こえてきた。颯にとって、好きな人の放尿音はあまりに衝撃だった。
シャーーーーーーッッッ!!
時折音色を変えて飛び出すおしっこは、30秒以上も続いていた。この長さでこの勢い・・・自分ならここまで絶対に我慢できないと、颯は一人で考えていた。そしてそう考えれば考えるほど、興奮が止まらない・・・。
しゅるしゅるしゅる〜〜〜〜〜
40秒ほどの長いおしっこは、はじめのような弱い勢いに衰えていき、そして止まった。
紗柚「ふぅ〜〜〜!!」
大きなため息と、カランカランとトイレットペーパーを巻き取る音が聞こえてきた。彼は興奮冷めないまま、トイレから少し離れた場所へと戻る。
紗柚「ごめんね色々と!! でもなんとか間に合った!! とんでもなくスッキリしたよ!!」
初デートとは思えないほどに恥ずかしい経験をした紗柚は、逆に吹っ切れた様子を見せながら駆け足で颯の元へと飛んできた。
颯「それなら良かった!! ならここから、スッキリした紗柚ちゃんを驚かせるべく、ちょっと目を瞑っていてね!!」
彼はそう言って、後ろから紗柚の目を隠した。
紗柚「うわ!! ちょっと怖い!!笑」
颯「はい、階段気を付けて!!」
紗柚は言われるがままに、見えない階段を上っていった。風が強く体全体に当たるのを感じる。
紗柚「・・・まだ?笑」
颯「もうちょっと!! あと5段くらい笑」
辺りはもう真っ暗になっていた。少し長い階段を上りきった後、颯は紗柚にカウントダウンをする。
颯「3、2、1・・・はい!!」
はいの合図で彼は紗柚の目から手を離した。その瞬間に広がる景色に、紗柚は心を奪われるのだった。
紗柚「うわぁ・・・・・・キレイ!!」

※宮崎県延岡市の愛宕山(あたごやま)展望台からの実際の景色(撮影:2014年)
颯「色々と不甲斐ないデートになっちゃったけど、どうしても最後にここだけは行きたかったんだ!!」
紗柚「凄く綺麗!! こんな綺麗な夜景見た事ないよ!!」
彼女は数分前とは全く違い、生き生きとした表情だった。そんな彼女を横目に安心する颯は続ける。
颯「次からは自分に合った辛さを頼める?」
紗柚「うん!!笑」
颯「そしてトイレに行きたくなってもすぐに言い出せる?」
紗柚「うん!! でも颯くんもちゃんと気付いた時にトイレって言ってね!!笑 私から言うの、結構恥ずかしいんだよ?笑」
仲直りの意味でも、2人は綺麗な夜景をバックに、静かにキスをしたのだった・・・。
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