依舞「ほんと水斗って、食べるの遅いよねーー」
ここは長崎県長崎市内のとあるホテル。朝食のビュッフェを平らげた女子大生の依舞(えま)は、彼氏である同じ大学の同級生水斗(みずと)とシルバーウィークの連休を使って長崎県内を旅行している最中だった。
水斗「ごめんごめん。俺、幼少期の頃から食べるの遅いから・・・」
水斗はムシャムシャと必死に取り分けたデニッシュのパンを食べ続けていた。既に満腹の依舞の手元には、朝の煎りたてのコーヒーが1杯だけ置かれている。
依舞「ねぇ知ってるーー?」
水斗「何が?」
依舞「食べるの遅い男って、遅漏なんだよーー?」
水斗「ブゥーーーー!!」
平気でそんな話をする依舞の顔面に、水斗は危うく咀嚼したパンを吹きかけるところだった。
水斗「朝からそんな話をするな!! いや、公衆の面前でそんな話をするな!!///」
依舞「えーーだってSNSで見たもんそういうのーー。確かに水斗って食べるの遅いしーー実際に遅漏じゃんーー?この法則って合ってると思うんだよねーー」
水斗「だから大きい声でそんな話をするなよっ!! ってかそもそもそんな話初めて聞いたわ!!」
顔を真っ赤にしながら話す水斗を軽く受け流しながら、依舞はホテルの壁に掛けられた時計を見つめていた。
依舞「そういえばなんだけどさーー、今日は何時に出発予定だっけーー?」
水斗「8時だよ。そこから歩いて長崎港ターミナルビルに・・・」
依舞は無表情に、そして無言のまま壁の時計を指差した。そんな彼女の指先の行方を見た水斗は、目を大きくして驚いたのだった。
水斗「おいおい嘘だろ・・・もう8時40分・・・」
依舞「だから食べるの遅いって言ったじゃんーー。私もう20分くらい前からお腹いっぱいでコーヒーしか飲んでないんだよ?それに何杯もーーー」
水斗「やっっっばい!! 船に乗り遅れるぞ!! 依舞はもう出れるか?俺もうデザートはいい!! すぐにチェックアウトするぞ!!」
依舞「部屋に戻ればいつでも出れるよーー。荷造りはもう出来てるしーー、化粧もバッチリだしーー」
水斗「本当にごめん!! 目的地までが近いからってゆっくりし過ぎた!!」
水斗は残りのパンを牛乳で流し込み、急いでレストランを出てホテルをチェックアウトしたのだった・・・。
水斗「受付は8時50分まで!! なんとか間に合うはずだ!!」
依舞「間に合えば私は、なんでも大丈夫ーー」
予定よりも45分遅れて、水斗と依舞の2人はホテルを出発した。時刻は既に8時45分。市街地を抜けた道路の斜め向かいにある長崎港ターミナルに駆け足で到着したのは、受付終了をわずかに過ぎた頃だった。
水斗「ハァーーー!! ハァーーー!!」
ターミナルビルの受付に息を切らしながら入ってきた2人を見て、受付の従業員は不思議そうな表情を浮かべていた。
受付「・・・もしかしたらですが、2名様でご予約の近藤様でいらっしゃいますか?」
水斗「ハァーーハァーー!! すいません!! そうです!! 近藤です!!」
受付「いないようでしたので良かったです。本来なら受付時間を過ぎていますが、数分くらいの遅れなので、今回だけは特別に船にご案内させていただきます」
水斗「すいません!! 本当にごめんなさい!!」
受付「他のお客様は全員船に乗り込んでおります。お客様も添乗員の指示に従って乗船してください」
依舞「遅くなってごめんなさいーー」
受付に謝罪をしながら、2人は船に乗り込んだのだった・・・。
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ガイド「お待たせいたしました!! 遂に軍艦島に上陸できましたね!! 軍艦島は先ほども言った通り通称で、正式名は”端島(はしま)”です。明治から昭和にかけて海底炭鉱によって栄えた島で・・・」
ツアーガイドの説明を右から左へと流すように聞いていた2人だったが、どうやら依舞の様子がおかしくなってきたのはそこからだった・・・。
水斗「良かったな!! 時間通りに戻れば、それまでは自由時間だって!!」
そんな何気ない話をしていた時だった。
依舞「ところでさーートイレってここにないかなーー?」
そんな事を言うもんだから、水斗が驚くのも無理はなかった。
水斗「おいおい何言ってんだよ。軍艦島にはトイレがないって手続きの時も船内アナウンスの時でも言ってただろ?」
そんな水斗の返事を聞いた依舞が深刻そうな表情に変わったのは、ここに来て初めてのことだった。
依舞「嘘でしょ・・・そんな・・・」
依舞は立ち止まり、そして少し震えながら長いスカートをギュッと握り締めた。
水斗「なんでこのタイミングなんだよ。トイレ行きたいのか?」
依舞「ずっと我慢してたから・・・もう我慢出来なくて・・・」
そんな様子の依舞に、少し困りながらも怒ったような態度で水斗は問いかけた。
水斗「いやいや船内にトイレはあっただろ?1時間も船内にいて・・・なんで?」
しかし依舞の返事を聞いた水斗は、理解不能な内容に目が点になりながらも、どこか彼女らしいと思ってしまうのだった。
依舞「だって軍艦島に上陸するのって今後の人生にないかもしれないよーー?ここで用を足せるのも、人生でもうないかもしれないしーー」
依舞はスカートの裾を持ち上げながら、少しモジモジとした動きを見せていた。
水斗「だからって・・・そんな事の為に限界になるまで我慢していたのか?」
依舞はコクリと頷いた。やはり彼女の考えていることは分からない。付き合う前から少し変わった性格だと思っていた水斗だったが、まさかこんな事を考えているとは微塵も思わなかった。
水斗「呆れるわ。なんだよ上陸記念に放尿かよ。いつから我慢してるんだよ・・・」
依舞「朝のトイレも行ってないよーー。昨日の夜にトイレに行ったのが最後だよーー」
水斗「アホじゃねーか。トイレないって添乗員もあれだけ言ってたのに・・・」
依舞「ごめんーー話聞いてなかったーー。あるもんだとしか思ってなくてーー」
呑気な言い方ではあったのものの、彼女の表情は強張っていた。
水斗「とにかく、ガイドさんに聞いてみよう」
2人は手を繋いだまま、急いで乗船場に戻るのだった・・・。
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水斗「ふ・・・船がない・・・」
乗船場に戻った2人は青ざめた。なんとそこには船がなかったのである。
添乗員「どうされましたか?」
乗船場には一人、男性の添乗員が立っていた。
水斗「すいません!! 乗ってきた船はどこに行ったんですか?」
添乗員「船内でも話していた通り、業務上の関係で伊王島で待機している船舶と入れ替えになります。どうかされましたか?」
よりにもよってなんでこんな時に・・・額に手を当てる水斗の様子を見た添乗員は、少し申し訳なさそうな表情だった。
水斗「彼女がお手洗いに行きたいそうで、結構緊急なんですけど・・・」
水斗と手を繋いだ状態で顔を真っ赤にしながら依舞は、添乗員の顔を伺っていた。
添乗員「あの・・・何度も説明させていただいた通り、島内にトイレは設置しておりません。船舶が来るまであと30分ほどかかりますので、それまでは我慢していただくほかないんです。申し訳ありません」
頭を下げる添乗員を見て、依舞はいきなり水斗の手をギュッと握りしめ、添乗員に頭を下げながら、急いで乗船場を後にしたのだった・・・。
依舞「ハァ、ハァ・・・!!」
1分後。水斗と依舞の2人は立入禁止区域の廃墟と化した建物の中に入っていた。ツアー客の目も盗み、息を切らした2人・・・。
水斗「何してんだよ!!」
依舞「ごめんーーどうしても我慢出来ないから・・・そのーー見張ってて欲しい///」
水斗「ハ、ハァーーーー?何考えてんだよお前!!」
依舞「だって軍艦島まで我慢するって必死だったんだもん!! もう我慢出来ないよーー!!」
水斗「だからって!!」
依舞「水斗が食べるの遅いからだよ!! そのせいで私コーヒー3杯も飲んじゃったしーー」
水斗「俺のせいかよ!! コーヒーは別に飲まなければ良かったじゃねーか!!」
依舞「最後にトイレしたの昨日の夜だよ?それにホテルのビュッフェでジュースも牛乳も飲んで、最後にコーヒー3杯も飲んで2時間経って・・・もう限界!!」
その瞬間、水斗の後ろで依舞はしゃがみ込みながら、廃墟の中でずっと我慢していた液体を放出してしまっていた。
シューーーーーーー!!
そんな音が聞こえるもんだから、本人はもちろん水斗も恥ずかしくなった。
水斗「おいおい音聞こえてるぞ思いっきり!! 恥ずかしいじゃねーか!!」
依舞「恥ずかしいのはこっちの方だよーーそんな事より見張っててよーーあと耳も塞いで!!」
水斗「人なんか来ねーよ。立入禁止区域なんだから!! 早く終わらせて出ないとバレたらマズいぞ!!」
そんな会話をコソコソとしながらも、依舞の股間からはおしっこがドバドバと出続けていた。
シューーーーーージョボジョボボーーーー!!
水斗「い・・・いつまで出てんだよ。恥ずかしいってこっちも!!」
依舞「だから凄い我慢してたんだってーー。分からなかったかもしれないけど、本当に限界の限界だったんだからね!!」
水斗「そもそも島に上陸するのが最初で最後だからって、何も限界まで我慢する必要ないだろ・・・本当に依舞って変わってるよな!!」
依舞「変わってるとか変わってないとかそういうのいいから、恥ずかしいから耳塞いで欲しいんだけど・・・///」
水斗「あっ・・・ごめん」
そんな小声の会話を2人で続けながら、依舞のおしっこはやっと勢いが弱まってきた。
しゅるしゅるしゅる〜〜・・・ポタポタポタ・・・
その場には昨夜から溜めていた濃い色のおしっこが大きな水溜まりを作っていた。朝に飲んだ大量のコーヒーも影響しているのか、心なしかコーヒーのようなおしっこの匂いも立ち込めている・・・。
依舞「軍艦島に住んでた人ごめんなさいーー」
そんな言葉を発すると同時に、依舞は水斗の腕をガッチリと掴んだ。
水斗「い、痛い・・・なんだよ今度は!!」
依舞「ごめん。ティッシュとかって、持ってないかなーー?」
呑気な声でそんな事を言う依舞へと、水斗は一瞬振り返ろうとした。
依舞「ダメ!! まだ穿いてないよ何もーー!!」
水斗「あっごめんごめん!! でも俺、ティッシュなんか持ってないぞ?」
依舞「うそーー。どうしようーー・・・」
そんな時、水斗の視界から人が来るような気配を感じた。
水斗「静かに!! 人が来たかも!!」
依舞「立入禁止区域に入るモラルのない人がいるのーー?」
水斗「お前に言われたくないだろーが!! お前はそれどころかオシッコもぶちかましてるじゃねーか!!」
ついつい大声で叫んでしまった水斗の声に、少しずつ忍び寄る人影・・・。
ガイド「お客様でしょうかー?声が聞こえましたが・・・」
目の前まで近づいてきたガイドと目が合った水斗は、観念してその場から出てきたのだった。
水斗「すいません!! ちょっと彼女が体調不良になったみたいでして・・・」
ガイド「大丈夫でしょうか?でもここは立ち入り禁止ですよ!! 乗船場まで行けますか?」
水斗「あぁすいません!! 急いで行きます!!」
2人は手を繋いだまま、ガイドから逃げるようにその場を後にしたのだった。
依舞「いきなり飛び出すから結局そのままショーツ穿いちゃったよーー。ショーツが濡れて気持ち悪いよーー」
水斗「そんなこと言ってる場合か!! とりあえず何事もなかったように他のツアー客と一緒に行動しよう!! 船が来るまで皆んなと一緒に見学しよう!!」
依舞「それまでにショーツ乾くかなーー?」
水斗「それはその時!! 最初で最後かもしれない軍艦島なんだろ?なら最後まで楽しもうぜ!!」
2人は大勢のツアー客を見つけると、一緒になって島内の見学を楽しむのだった・・・。
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水斗「楽しかったなー凄い場所だった・・・」
依舞「うーーんそんな事より私は、濡れたショーツがまだ気持ち悪いのと、何時間も前から催していた強烈な尿意から解放されて色々と複雑な気分ーー」
水斗「野ションしたことへは言及しないのかよ?」
そんな質問をニヤニヤしながらする水斗を見て、依舞はほっぺを膨らませた。
依舞「付き合いたての彼女に対してそんな質問をするのは、全くデリカシがないよねーー」
2人は先ほどの乗船場に着いた。交換の船はもちろん到着していて、ツアー客の大半は既に乗船していた。
添乗員「お待たせしてすいません!! 船内ならトイレはありますので!!」
船を待っていた時と同じ添乗員が水斗に声をかけてきた。添乗員は依舞の方を見ていて、申し訳なさそうにしながらトイレの方向を指差していた。
水斗「あっすいません、お手洗いはもう大丈夫でして・・・」
添乗員「は、はぁ・・・?」
不思議そうな表情を浮かべる添乗員から視線を逸らした水斗は、依舞と手を繋ぎながら、一緒に帰りの船に乗り込むのだった・・・。
↓オススメ↓
結構前の作品です。お漏らしではありますが、ある意味これも野ションの類になるでしょう。
女子大生という括りではこの話も同じです。スイスでは深夜にトイレを流せないという文化を題材にしたお話です。
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